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リスキリング研修とは?企業が社員に学ばせる分野・受け方・進め方を解説

会議室で、社員たちがノートPCを前に座り、講師が正面の画面の表を指しながら説明している様子

「リスキリングが大事なのは分かる。でも、うちの社員に何を学ばせればいいのか。研修会社に頼むのか、公的な講座があるのか。」リスキリング研修を調べ始めた社長が最初に迷うのは、言葉の広さです。DXの講座も、資格の取得も、管理職研修も、同じ「リスキリング」と呼ばれています。

この記事では、国の資料の定義、研修の分野、中小企業10社の事例、受け方と費用、進め方を順にまとめます。数字と事例は、すべて国の資料で確かめたものです。

AIを使う仕事へのリスキリングを、自社の業務を題材にした研修で進める場合の中身は、シス学 AI研修のページにまとめています。

リスキリング研修とは?会社が社員に「今はない仕事」のスキルを学ばせる研修

リスキリング研修とは、会社が社員に、新しい仕事や大きく変わる仕事に必要なスキルを学ばせる研修です。もとになる定義は、経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」(2021年2月26日)で、リクルートワークス研究所の石原直子氏が示した資料にあります。

定義の最後が「獲得する/させること」になっている点が大事です。社員が自分の興味で学ぶことではなく、会社が事業の変化に合わせて「この仕事ができる人をつくる」ために学ばせることが含まれます。似た言葉との違いを表にしました。

リスキリングと似た言葉の違い(検討会資料の説明をもとに整理)
言葉何のために学ぶか仕事との関係中小企業での例
リスキリング新しい仕事、または大きく変わる仕事に就くため仕事を続けながら、会社が学ばせる建設会社の事務担当が、工事写真の加工やクラウドでの書類管理を学び、現場の書類づくりを受け持つ
アップスキリング今の仕事の延長で、スキルを高めるため(一般的な使い方)今の仕事のまま経理担当が表計算の関数を覚えて、今の集計を速くする
リカレント教育働く→学ぶ→働くのサイクルを回し続けるため新しいことを学ぶために、いったん職を離れることが前提(検討会資料)社員が退職・休職して大学院で学び直す
学び直し(自己啓発)個人の関心に基づいて、さまざまなことを学ぶ会社の仕事と直接つながらないこともある社員が自分の時間に語学や資格の勉強をする
OJT今ある部署の、今ある仕事のやり方を覚えるため仕事をしながら先輩に教わる(検討会資料は「連続系」の能力開発と呼ぶ)新人が先輩の見積書づくりを横で見て覚える

検討会資料は、リスキリングは「リカレント教育」ではなく、単なる「学び直し」でもない、と書いています。これからも仕事で価値を生み続けるために「必要なスキル」を学ぶ点が強調される、という説明です。また、社内に今ない仕事のためのスキルは、OJTの延長では身につかない「非連続系」の能力開発だとしています。

国の制度の上でも、同じ考え方が使われています。厚生労働省の人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」が対象にする訓練は3つです。新規事業などの事業展開、社内のDX化・GX化(脱炭素)、人事・人材育成の計画で今後つく予定の職務、のどれかに当たる訓練です。制度の期限と条件はリスキリングの助成金はいつまで使える?で解説しています。

リスキリング研修が今必要な理由|国の方針と、中小企業の研修の実態

理由1:国の方針が「リ・スキリング」を柱にしている

政府の新しい資本主義実現会議は、2023年5月16日に「三位一体の労働市場改革の指針」を出しました。①リ・スキリングによる能力向上支援、②個々の企業の実態に応じた職務給の導入、③成長分野への労働移動の円滑化、の3つを一体で進めるという方針です。同じ指針によると、国の在職者への学び直しの支援は、企業経由が75%(771億円)、個人経由が25%(237億円)です。

企業経由の771億円は、人材開発支援助成金、公共職業訓練(在職者訓練)、生産性向上人材育成支援センターの運営費交付金です。個人経由の237億円は教育訓練給付です。指針は、5年以内をめどに、過半を個人経由で給付できるようにするとしています。

厚生労働省のサイトに載っている「リスキリング関連の主な施策一覧」(2026年1月27日時点)には、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の施策が並んでいます。企業向けと個人向けの主なものは次のとおりです。

リスキリング関連の主な施策(R8.1.27時点の一覧より。金額は令和8年度当初予算案など)
対象施策中身予算
企業人材開発支援助成金(人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース)社員が自発的に受ける訓練を支える企業や、新規事業の立ち上げなどで職務が変わる社員に訓練を行う企業を支援2コース合わせて405億円
企業生産性向上人材育成支援センター中小企業などへの人材育成の相談、人材育成プランの提案、職業訓練の実施まで一貫して支援する総合窓口585億円の内数
企業中小企業リスキリング支援事業中小企業の人材育成などへの専門的な助言・指導2.6億円
企業中小企業大学校の経営者・経営幹部リスキリング財務・会計、経営戦略、組織マネジメントなどの実践的な研修193億円の内数
個人教育訓練給付金デジタル分野などのスキルアップに取り組む個人への直接支援。給付率は令和6年10月に最大8割に引き上げ427億円
個人教育訓練休暇給付金雇用保険の被保険者が教育訓練のための休暇を取ったときに、生活を支える給付金。令和7年10月から施行129億円

理由2:小さい会社ほど、社員に研修を受けさせられていない

厚生労働省の「令和7年度 能力開発基本調査」は、常用労働者30人以上の企業・事業所と、そこで働く人の調査です。2025年10月1日時点の状況を調べ、2026年7月31日に公表されました。調査の対象数は企業7,452社、事業所7,194か所、個人20,127人で、有効回答率はそれぞれ52.6%、54.2%、43.9%です。

この調査で、正社員にOFF-JT(ふだんの仕事を離れて行う研修)を実施した事業所は70.9%でした。企業の規模別に見ると、小さいほど低くなります。30人未満の会社は調査の対象に入っていません。

正社員にOFF-JTを実施した事業所の割合(企業規模別。令和7年度 能力開発基本調査 図27)
企業規模実施した事業所の割合
30〜49人53.0%
50〜99人65.5%
100〜299人79.6%
300〜999人85.2%
1,000人以上85.4%

理由3:社員の自主的な学びは「忙しさ」で止まる

同じ調査で、自己啓発(社員が自分で学ぶこと)に問題があるとした正社員は82.8%でした。問題点(複数回答、図91)の1位は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」58.5%です。2位は「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」27.4%、3位は「費用がかかりすぎる」26.2%でした。

学ぶ時間を会社が用意する制度も、まだ少ないままです。教育訓練休暇制度を導入している企業は5.7%で、「導入していないし、導入する予定はない」企業が85.4%でした。社員の自主性に任せると、時間とお金の壁で止まります。学ぶ中身と時間を会社が決めて、業務の中に組み込むのがリスキリング研修です。

リスキリング研修の主な分野|6つの分野と、向く社員・研修の例

リスキリング研修で扱う分野を、国の資料と厚生労働省の活用事例集に出てくる研修から6つに分けました。「研修の例」は、事例集に載っている中小企業の研修と、国の施策一覧・厚生労働省の資料から取っています。

リスキリング研修の主な6分野
分野学ぶこと向く社員研修の例(国の資料より)
1. デジタル基礎業務で使うITの基本、クラウドでのデータ管理、情報の扱い方紙と電話で仕事をしてきた事務・現場の社員建設事務担当者育成講座(工事写真の加工、クラウドのデータ管理、書類作成)24時間
2. 生成AI・業務の自動化自分の業務の書類・メールをAIで下書きし、確かめる手順書類づくり・問い合わせ対応・集計が多い社員生成AIで商品提案書の構成案づくり・文章生成・修正を学ぶ営業担当者向けの訓練(厚生労働省が助成の対象の例に挙げたもの)
3. データ・DXデータの集め方と分析、IoT、BIM/CIMなどの3次元設計製造・建設などで、記録や図面を扱う社員データベーススキル向上研修(SQL)20時間、製造業のためのDXリスキリング講座 15時間、施工BIM/CIM総合研修 20時間
4. 新しい事業の専門技能新規事業に必要な免許・資格・機械の操作新しい事業の担い手にする社員第二種普通免許(福祉タクシー)38.5時間、CNC旋盤のプログラミング 34時間、UI/UXデザイン 156時間
5. GX(脱炭素)省エネ・ICT施工・ドローンなど、脱炭素に関わる技術建設・農業・設備などの現場の社員ICT施工のポイント 19時間40分、農業ドローンオペレーター認定講座 38時間
6. 経営・マネジメント財務・会計、経営戦略、組織マネジメント社長、後継者、幹部中小企業大学校の経営者・経営幹部向けの研修

会社がこれから力を入れたい研修の中身も、能力開発基本調査に出ています。今後実施したいOFF-JTの1位は「マネジメント(管理・監督能力を高める内容など)」35.5%です。2位は「新たに中堅社員となった者を対象とする研修」35.2%、3位は「新たに管理職となった者を対象とする研修」35.1%でした。分野を選ぶときは、まず「この先1〜3年で、どの仕事を誰に任せたいか」を決め、その仕事に足りないスキルから選びます。

2の生成AIの分野で、どの社員にどんな順番で教えるかはAI人材育成とは?で、社員に学ばせる業務の選び方は業務の棚卸しのやり方で解説しています。

リスキリング研修のメリットと事例|厚生労働省の事例集に載った中小企業10社

厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)活用事例集」は、事例を3つに分けて載せています。「事業展開」「デジタル・DX」「グリーン・カーボンニュートラル化」です。そのうち中小企業の10社を、何を何時間学び、研修のあとに何が変わったかで並べました。受講料は事例集に書かれた税込の金額です。

中小企業のリスキリング研修の事例(厚生労働省の活用事例集より)
業種・従業員数学んだこと(研修・時間)受講料(税込)研修のあとに変わったこと(事例集の記載)
道路貨物運送業・25名第二種普通免許の取得(介護・福祉タクシーの運転手の養成)38.5時間221,000円(1人分)免許を取得し、福祉タクシーの業務を始めた
情報サービス業・37名UI/UXデザイナー向けオープン研修 156時間+eラーニング72時間585,112円(1人分)訓練の後、デザイン部門にUI/UXチームを発足し、新分野の受注に挑めるようになった
生産用機械器具製造業・50名ターニングセンタミーリング(CNC旋盤のプログラミング、加工実習)34時間308,000円(1人分)受講者を中心に、自動旋盤加工による生産を始めた
機械器具小売業・18名IT導入基礎編(オーダーメイド訓練。デジタルリテラシー、ノーコードアプリ開発など)12時間(1.5時間×8回)293,220円(3名分)新事業を立ち上げる際の主要な人員を育成できた
総合工事業・129名建設事務担当者育成講座(工事写真の加工、クラウドのデータ管理、施工管理の手順、書類作成)24時間1,320,000円(4人分)事務の社員が現場の書類作成業務を行えるようになり、現場の長時間労働の是正につながった
輸送用機械器具製造業・229名データベーススキル向上研修(SQL、データベース構築。外部講師による事業内訓練)20時間部外講師料300,000円(1人分)受講者が担当ラインでデータを取って分析し、課題の抽出と解決に取り組むようになった
酒類製造業・20名製造業のためのDXリスキリング講座(デジタル計測、自動記録)15時間90,000円(1人分)手書きだった温度管理の記録に、デジタル計測を導入できるようになった
総合工事業・27名施工BIM/CIM総合研修 20時間220,000円(1人分)×2人計画・設計の段階から3次元モデルを使い、維持管理を前提にした設計を提案できるようになった
設備工事業・36名ドローン技能講習及び安全運航管理者講習 28時間198,000円(1人分)×2名ドローンで工事全体の出来栄えを確かめられるようになり、工程管理が効率化した
農業・10名農業ドローンオペレーター認定講座(飛行操作、農薬散布の訓練)38時間220,000円(1人分)複数人が免許を取り、繁忙期の作業を平均化して、社員一人ひとりの負担を減らせた

10社に共通するのは、研修の前に「研修のあと、この社員にこの仕事を任せる」が決まっていることです。運送会社なら福祉タクシーの運転、建設会社なら現場の書類づくり、酒造会社なら温度管理の自動記録です。研修の時間は、UI/UXデザインの1社を除く9社が12〜38.5時間でした。1人あたりの受講料は約9万〜59万円で、うち7社は約20万〜33万円です。

リスキリング研修の受け方と研修会社の選び方|5つの受け方と、確かめる6項目

能力開発基本調査で、正社員に実施したOFF-JTの教育訓練機関(図28、複数回答)は、「自社」が76.4%でした。次が「民間教育訓練機関(民間教育研修会社、民間企業主催のセミナー等)」の41.4%です。社内の研修と外部の研修を組み合わせている会社が多いということです。リスキリング研修の受け方は、主に次の5つです。

リスキリング研修の5つの受け方
受け方中身向く場合公式に出ている条件・金額
民間の研修会社(オーダーメイド)自社の業務や新しい事業に合わせて、研修会社がカリキュラムを組む新しい仕事の中身が自社に固有で、自社の書類や設備で練習したい金額は会社ごとに違う。AI研修の公開料金はAI研修の費用相場で比べられる
民間の研修会社(公開講座・eラーニング)複数の会社の社員が一緒に受ける講座や、動画で学ぶ講座資格や共通の技術(ドローン、BIM/CIM、プログラミングなど)を学ぶ事例集の10社では、1人あたり約9万〜59万円(上の表。社内に講師を招いた例も含む)
公的な訓練(生産性向上支援訓練)独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の生産性向上人材育成支援センターが行う在職者向けの訓練。「生産・業務プロセスの改善」「横断的課題」「売上げ増加」「IT業務改善」の4分野。令和4年度からはDXに資する要素を含むコースを「DX対応コース」として選定費用を抑えて、まず社員の基礎をそろえたい受講料は1人3,300〜6,600円(税込)、IT業務改善は2,200〜4,400円(税込)。訓練時間は6〜30時間(IT業務改善は4〜30時間)。会社の会議室でも実施でき、事業主からの受講指示を受けた人に限る
中小企業大学校中小企業基盤整備機構の研修機関。経営者・経営幹部向けの財務・会計、経営戦略、組織マネジメントなど社長、後継者、幹部が経営を学び直す受講料と日程は、各校の研修案内で確かめる
社内の研修(社内講師)社内でAIや新しい技術を使いこなしている社員が教える教えられる社員がいて、準備の時間を業務から外せるやり方はAI社内研修のやり方で解説

どれを選ぶか迷ったら、公的な相談窓口を使う手もあります。生産性向上人材育成支援センターは、中小企業などの人材育成の相談、人材育成プランの提案、職業訓練の実施まで一貫して支援する総合窓口と位置づけられています。社員が自分で講座を探すときは、国の施策一覧に載っている「マナビDX」(デジタル人材向け)や「マナパス」(大学などの学び)が入り口になります。

リスキリング研修会社に確かめる6項目

研修の中身の良し悪しより先に、「研修のあとに新しい仕事を任せられるか」を確かめます。検討会資料が日本企業の課題に挙げた、スキルの見える化と、受講後の現場経験の2つを中心にしました。

リスキリング研修会社に確かめる6項目
確かめること聞き方の例なぜ確かめるか
研修のあとの仕事から逆算しているか「研修のあと、この社員にこの仕事を任せたい」という前提で、中身を組めますか事例集の10社は、どれも研修後の仕事が先に決まっていた
今のスキルを測ってから始めるか受講前に、社員ごとの今のスキルと、新しい仕事に要るスキルの差を確かめますか検討会資料は、今あるスキルと将来要るスキルの両方の見える化が欠かせないとしている
受講後の現場経験まで支えるか研修のあと、実際の業務で試す期間に質問や確認を受けてくれますか検討会資料は、受講後の現場経験(社内インターン、お試し配属、見習い)こそ重要としている
時間数と実施方法実訓練時間は何時間ですか。対面・同時双方向のオンライン・eラーニングのどれですか業務時間の確保の計画と、助成金を使う場合の条件(10時間以上など)に関わる
学んだことの記録が残るか修了の証明や、学んだスキルの一覧を受講者ごとに出せますか指針は、スキルの履歴を見える化する一助としてオープンバッジ(デジタルの資格証明)の活用を挙げている
料金の書き方受講料は税込ですか、税別ですか。助成金を使う場合と使わない場合で受講料は変わりませんか助成金の有無だけで受講料に差をつけた場合、差額は助成の対象経費にならない場合がある

リスキリング研修の進め方|5ステップと期間の目安

リスキリング研修は、研修を選ぶところからではなく、「どの仕事を新しくつくるか、大きく変えるか」から始めます。期間は、社員3〜5人に1つの新しい仕事を任せる場合の目安です。

リスキリング研修の5ステップ(期間は目安)
ステップ期間誰ができあがるもの
1. 新しくつくる仕事・変わる仕事を決める2週間社長「1〜3年後に、この仕事を社内でできるようにする」という1行と、その仕事の中身
2. その仕事に要るスキルと、今のスキルの差を見る2〜4週間社長・担当の管理職新しい仕事に要るスキルの一覧と、候補の社員ごとの差
3. 学ぶ社員を本人と話して決める2週間社長・管理職・本人受講する社員と、研修後に任せる仕事・役割の約束
4. 研修を選び、業務時間の中で受ける研修の1〜3か月前から準備。研修は、事例集の10社中9社が12〜38.5時間総務・管理職研修の日程と、受講中の仕事の代わりを決めた表
5. 研修のあと、現場で試し、配置と評価に反映する研修後1〜3か月社長・管理職・受講者新しい仕事の手順書と、任せる範囲・評価の決め方

ステップ1:新しくつくる仕事・変わる仕事を決める

仕事の名前で書きます。例えば「現場の書類づくりを事務の社員が受け持つ」「受注メールの転記をAIの下書きと社員の確認に変える」「ドローンで出来形を確かめる」です。「DX人材を育てる」のような書き方では、研修を選べません。

ステップ2:要るスキルと今のスキルの差を見る

新しい仕事を、手順ごとに「何ができればよいか」に分けて書き出し、候補の社員ごとに○(できる)・△(教われば分かる)・×(まだ)を付けます。×が多い所が研修で学ぶ所、△が多い所は社内のOJTで埋められる所です。

ステップ3:学ぶ社員を本人と話して決める

検討会資料は、リスキリングに抵抗する人が一定の割合で出てくることを課題に挙げています。対策は、本人の今のスキルを見える化したうえで、新しい仕事の可能性を見せることです。面談では「研修のあとに任せたい仕事」「そのときの役割」「学ぶ時間をどう確保するか」の3つを伝えます。

ステップ4:研修を選び、業務時間の中で受ける

理由3で見たとおり、社員の自主的な学びは「仕事が忙しい」で止まります。研修は所定労働時間の中に入れ、受講中の仕事を誰が代わるかを先に決めます。助成金を使う場合は、研修開始日の1か月前までに計画届を出す必要があるので、このステップの準備は1〜3か月前から始めます。

ステップ5:現場で試し、配置と評価に反映する

事例集の機械製造の会社は、受講者を中心に自動旋盤加工による生産を始めました。研修を受けた社員に、学んだ仕事を実際に任せる期間をつくり、任せる範囲と評価の決め方を社長が決めます。新しい仕事の手順は、マニュアル作成×AIのやり方で手順書にしておくと、次の社員に渡せます。

リスキリング研修の注意点|検討会資料が挙げた4つの誤解

経済産業省の検討会資料は、リスキリングについての誤解を4つ挙げています。中小企業の研修に当てはめると、それぞれ次の失敗になります。

リスキリングの4つの誤解と、中小企業での対策
誤解(検討会資料)資料の説明中小企業で起きやすいこと対策
一部のデジタル人材の育成・獲得の問題だDXは価値創造の全プロセスを変えうるので、現場の人を含む全人材に必要パソコンに詳しい若手1人だけを研修に出し、ほかの社員の仕事は変わらない新しい仕事に関わる社員全員の役割を決め、担い手は深く、周りの社員は基礎を学ぶ
日本企業の得意なOJTの延長でできるOJTは今ある仕事の「連続系」。今ない仕事のスキルは「非連続系」で、OJT以上の取り組みが必要「やりながら覚えて」で始め、社内に教えられる人がいないまま止まる今ない仕事のスキルは外部の研修で学び、研修のあとに社内で試す期間をつくる
コンテンツは社内で開発するしかないデジタルのスキルは社内外で共通のことが多く、外部のコンテンツを使うほうが費用と時間の節約になりうる社長や詳しい社員が、教材づくりに何十時間も使う共通の技術は公的な訓練や公開講座を使い、自社に固有の部分だけを社内やオーダーメイドで補う
デジタルスキルよりソフトスキルの方が重要だソフトスキルが高くても、デジタル技術を実際に扱えなければ生み出せる価値は限られる研修がコミュニケーションや考え方の話だけで終わる研修の最後に、新しい仕事の作業を実際に1件終わらせる練習を入れる

もう1つ、お金の面の注意です。「助成金で受講料の負担がなくなる」とうたう勧誘には気をつけてください。厚生労働省は、助成金で研修を無料で受けさせられるとうたう勧誘に注意を呼びかけています。受講料はいったん会社が全額払い、支給は審査で決まります。返金を受けるなどして、会社が受講料の全額を負担していない場合は支給されません。詳しくはAI研修の助成金の注意点にまとめています。

リスキリング研修を定着させる|研修のあと3か月で見る4つの数字

リスキリング研修の成果は、受講した人数ではなく「新しい仕事が社内で回り始めたか」で見ます。研修のあと3か月、次の4つを毎月数えます。

リスキリング研修のあとに毎月見る数字(例)
数字数え方例
新しい仕事を受講者が担った件数研修で学んだ仕事を、受講者が自分で終わらせた件数事務の社員がつくった現場の書類の件数
ほかの社員から引き取った時間新しい仕事を受講者が担ったことで、もとの担当者が使わなくて済んだ時間現場の技術者が書類づくりに使っていた残業時間
手直しの件数受講者の仕事を、確認の段階で直した件数書類の記入漏れ、データの取り違え
次に学ぶ社員の人数受講者の手順書を使って、新しい仕事を覚え始めた社員の数2人目の事務の社員

事例集にも、1人目の研修のあとに2人目へ広げる計画が書かれています。「他の従業員の第二種普通免許取得を検討」(運送)、「他の従業員にも受講の機会を設け、規模拡大を計画中」(機械製造)などです。1人目が手順書をつくり、2人目はそれを使って社内で覚える形にすると、研修の費用を毎回かけずに広げられます。

リスキリング研修の費用と国の支援|会社向けと社員向けを分けて見る

リスキリング研修の費用は、受け方で大きく変わります。公的な生産性向上支援訓練は1人3,300〜6,600円(税込)、事例集の民間の講座は1人9万〜59万円ほどでした。国の支援は、会社が使うものと、社員個人が使うものに分かれています。

リスキリングの費用に関わる国の支援(会社向けと個人向け)
誰が使うか制度ポイント詳しい解説
会社人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)中小企業は訓練経費の75%と、1人1時間1,000円の賃金を助成。令和8年度末までの時限措置。対象は雇用保険の被保険者。計画届は研修開始日の6か月前から1か月前までに出す。受講料はいったん会社が全額払う。受給は保証されず、審査で決まるリスキリングの助成金はいつまで使える?
会社生産性向上支援訓練受講料そのものが1人3,300〜6,600円(税込。IT業務改善は2,200〜4,400円)。職務と訓練内容の関連、10時間以上などの条件を満たせば、人材開発支援助成金も使える場合があるJEEDの公式ページ(出典)
社員個人教育訓練給付金社員が自分で講座を受ける場合の給付。給付率は令和6年10月に最大8割に引き上げハローワーク
社員個人リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(経済産業省)個人のキャリア相談からリスキリング、転職までを一体で支援する事業(民間事業者経由で補助)。会社の研修費の制度ではないリスキリングの助成金はいつまで使える?

AI研修の各社の公開料金はAI研修の費用相場、助成金の申請の手順はAI研修の助成金申請のやり方で解説しています。

シス学の場合|リスキリング研修の計画も「作業・確認・判断」に分けます

シス学(システム経営学)は、AIエージェントを活用し、会社を「儲かるシステム」につくり変える経営学です。手順と判断の基準を仕組みに移し、下書きや転記はAIが、確かめる仕事は社員が受け持ちます。リスキリング研修の計画づくりも、次のように分けると、社長の手間は「判断」の行だけになります。

リスキリング研修の計画づくりの分け方(例:現場の書類づくりを事務の社員に移す場合)
受け持つ人仕事中身
AI作業現場の技術者の業務記録から書類づくりの手順を書き出し、手順ごとに要るスキルの一覧と、候補の社員ごとの差の表を下書きする
社員(管理職・総務)確認本人と面談して表の○△×を直し、研修の日程が所定労働時間に収まるか、受講中の仕事を誰が代わるかを確かめる
社長判断どの仕事を誰に移すか、研修のあとの役割と評価、研修にかける時間と予算を決める

研修の効果は、ほかの社員から引き取った作業時間と、その時間で増えた売上や粗利の数字で確かめます。シス学 AI研修は、見積書、請求書、日報、受注メールなど、受講する社員の職務に合わせた題材で、AIで仕事を終わらせるところまで練習する研修です。研修資料と業務別の手順書をお渡しするので、2人目以降は社内で覚えられます。

助成金を使う場合も使わない場合も、研修の料金は同じです。助成金の対象になるかどうかは管轄の労働局が判断し、申請の手続きは社会保険労務士にご依頼ください。料金は、対象の業務と体制をお聞きしたうえで、無料相談でご案内します。まずは30分の無料相談で、新しく任せたい仕事と、候補の社員のことをお聞かせください。

まとめ

  • リスキリング研修は、新しい仕事や大きく変わる仕事に要るスキルを、会社が社員に学ばせる研修。職を離れるリカレント教育や、今の仕事の延長のOJTとは違う
  • 国は「三位一体の労働市場改革」の柱にリ・スキリングを置き、会社向け・個人向けの施策を並べている。一方で、正社員にOFF-JTを実施した事業所は30〜49人の企業で53.0%と、規模が小さいほど低い
  • 分野は、デジタル基礎、生成AI、データ・DX、新しい事業の専門技能、GX、経営・マネジメントの6つ。事例集の中小企業10社は、どれも研修後に任せる仕事が先に決まっていた
  • 受け方は、研修会社(オーダーメイド・公開講座)、公的な訓練(1人3,300〜6,600円・税込)、中小企業大学校、社内の研修。研修会社には、研修後の仕事からの逆算と、受講後の現場経験の支えを確かめる
  • 進め方は、仕事を決める→スキルの差を見る→本人と話す→業務時間内に受ける→現場で試して配置と評価に反映する、の5ステップ

最初の1歩として、明日、紙に「1〜3年後に社内でできるようにしたい仕事」を1つだけ書いてください。その下に、その仕事を任せたい社員の名前と、その社員が今その仕事のどこまでできるかを○△×で書きます。×の所が、リスキリング研修で学ばせる中身です。

よくある質問

リスキリングとリカレント教育の違いは何ですか?

経済産業省の検討会で示された資料では、リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」のサイクルを回し続けることです。新しいことを学ぶために職を離れることが前提とされています。リスキリングは、新しい職業に就くため、または今の職業で必要なスキルの大きな変化に合わせるために、必要なスキルを獲得する/させることです。会社が社員に学ばせる研修は、主にリスキリングに当たります。

リスキリング研修は、どの社員に受けさせればよいですか?

先に「研修のあとに任せたい仕事」を決め、その仕事に近い業務をしている社員から選びます。学ぶ意欲だけで選ぶと、研修のあとに任せる仕事がなく、学んだことが使われません。本人と面談し、研修後の役割と学ぶ時間の確保を伝えてから決めます。

リスキリング研修は、業務時間内に受けさせるべきですか?

業務時間内をおすすめします。厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査では、自己啓発の問題点の1位が「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」(正社員58.5%)でした。人材開発支援助成金の賃金助成も、所定労働時間内に行った研修の時間が対象です。

小さな会社でも、費用を抑えてリスキリング研修はできますか?

できます。JEEDの生産性向上支援訓練は、在職者向けの訓練で、受講料は1人3,300〜6,600円(税込)、IT業務改善の分野は2,200〜4,400円(税込)です。会社の会議室で行うこともできます。事業主からの受講指示が必要なので、会社として申し込みます。

リスキリング研修は、どのくらいの時間がかかりますか?

学ぶ中身で変わります。厚生労働省の活用事例集に載った中小企業10社のうち、9社は12〜38.5時間でした。UI/UXデザインのように新しい事業の専門技能を学ぶ研修では、156時間+eラーニング72時間の例もあります。研修のあとに現場で試す期間として、1〜3か月を見ておきます。

リスキリング研修に助成金は使えますか?

条件を満たせば、厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が使える場合があります。中小企業は訓練経費の75%と1人1時間1,000円の賃金が助成の対象で、令和8年度末までの時限措置です。対象は雇用保険の被保険者で、職務に直接関連する10時間以上の訓練です。計画届は研修開始日の6か月前から1か月前までに出し、受講料はいったん会社が全額払います。支給は審査で決まり、保証されるものではありません。

出典・参考

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