【2026年、労働局が「不正受給に関与した訓練実施者」を相次いで公表】
人材開発支援助成金は、会社が社員に研修を受けさせたとき、研修の経費と研修中の賃金の一部が助成される、厚生労働省の制度です。この助成金について、2026年に次の2件が公表されました。
| 公表日 | 公表した労働局 | 訓練実施者 | 助成金のコース | 公表資料にある内容 | 金額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年7月31日 | 富山労働局[4] | エッグフォワード株式会社 | 人への投資促進コース | 管内の事業所1社の申請で、申請事業主に訓練経費の実質的負担なしで助成金を申請させるスキームにより、助成金を不正に受けようとした事業主の不正受給に関与した | 未然防止(不支給決定日 令和8年7月31日) |
| 2026年10月2日 | 神奈川労働局[3] | 株式会社Knowledge・Learning | 事業展開等リスキリング支援コース | 管内の事業所3社の申請で、申請事業主が訓練経費を全額負担せずに助成金を申請させるスキームにより、助成金を不正に受けようとした事業主の不正受給に関与した | 不正受給額 8,400,000円(支給決定等取消年月日 令和8年10月2日) |
公表資料の書き方に注目してください。不正受給をしようとしたのは「申請した事業主」で、研修会社はそれに「関与した」とされています[3][4]。助成金を申請するのは、研修を受けさせた会社です。勧誘に乗って申請すれば、自分の会社が不正受給の当事者になります。
さらに、2026年8月3日以降の支給申請からは、公表の特例が始まりました。不正が認められれば、支給が決まる前でも、自主申告していない会社は原則として公表の対象になります[2]。「助成金をもらう前だから大丈夫」とは言えなくなりました。
【論点1】「実質無料」「キャッシュバック」は危険サイン|助成金は会社が払った経費の一部を戻す制度
まず、制度の前提です。助成金を受けるには、事業主が訓練費を全額負担することが必須要件です[1]。支給申請日までに、会社が研修の経費を全額払っている必要があります[2]。
リーフレットは、研修会社などから訓練経費の返金、クーポン、サービスの提供を受け取ると、全額負担していないとみなされ、助成金は受給できないとしています[1]。助成金で研修が無料になったり、利益が出たりすることは、制度上できません[1]。
厚生労働省と労働局が示す、危険な勧誘の言葉
| 勧誘の言葉 | 資料での扱い |
|---|---|
| 「無料で訓練が受けられます」 | 危険サイン[1] |
| 「広告協力してくれたら費用負担なし」 | 不正受給のリスクがある。まずは労働局に相談[1] |
| 「後からキャッシュバックがあります」 | 同上[1] |
| 「この訓練は専門家監修なので不正ではないです」 | 同上[1] |
| 「受講料は実質無料の上、支払った額以上に利益をあげることができる」 | 助成金は払った経費の一部を助成するもので、利益が出ることは仕組み上あり得ない[2] |
| 「研修後のアンケートの対価に協力金を払うので、実質無料で受けられる」 | 負担額を実質的に減らしたものとみなし、経費助成の対象外[2] |
| 「紹介する会社への営業協力の対価を、研修費の支払いに充てられる」 | 同上[2] |
| 「AI研修とAIツールの導入をセットにすれば、ツールの費用も研修費として申請できる」 | AI研修の費用は対象経費だが、AIツールの導入費用は対象経費ではない[2] |
実際に不正受給となった事例
リーフレットの裏面には、次の事例が載っています[1]。
- 教育訓練機関などから「訓練契約とは別に役務契約を結んで協力金を受け取れば、訓練経費は実質無料。さらに助成金を申請すれば利益が出る」と説明され、協力金を受け取りながら、全額負担したとして申請した
- 民間のコンサル会社から「研修を実施してくれれば、無料でシステム導入を請け負う」と説明され、無料でシステムを導入しながら、全額負担したとして申請した
同じリーフレットは、全額負担していない例として、次も挙げています[1]。
- 教育訓練機関などから受け取った金額と助成金を足すと、訓練費用と同じ額だった
- 受講の感想やインタビューなど、宣伝協力のお礼として金銭を受け取った
- 「訓練は実質無料」「事業主の負担はゼロ」と言われ、訓練の前後に金銭を受け取った
- 訓練を受ける見返りに、製品を無料または割引で受け取った
【論点2】不正になると会社が背負うもの|公表・返還と2割の上乗せ・5年間の不支給
リーフレットは、不正受給と判断されたときの扱いを、次のように示しています[1]。
- 会社名、代表者名の公表
- 不正受給額の全額返金、不正受給額の2割相当額、延滞金の支払い
- 5年間、雇用関係助成金が支給されない
- 悪質な場合は、刑事告訴の可能性もある
詳細版のパンフレットでは、すでに受け取った助成金を返すときに、年3%の延滞金と、返還額の20%の違約金が加わると書かれています[2]。
申請を人に任せていても、責任は残ります。申請書の作成から提出までを任せた代理人が不正をした場合でも、会社に助成金が支給されれば、会社が不正受給の責任を問われることがあるとされています[2]。
2026年8月3日からの公表の特例
- 令和8年8月3日以降の支給申請から適用されます[2]
- 支給申請をした会社に不正が認められた場合、支給決定の前でも、自主申告をしていなければ原則として公表の対象です。申請額の合計が100万円未満の場合などは除かれます[2]
- 「自主申告」とは、労働局の実地調査や呼び出し、文書による照会などより前に、不正受給に当たると申し出ることです[2]
- 自主申告すれば、受給前の場合や、受給した額と違約金・延滞金をすぐに返した場合は、原則として会社名は公表されません。ただし、特に重大または悪質な場合は除かれます[2]
研修会社の側の扱い
研修会社(訓練実施者)が会社の不正受給に関与した場合の扱いは、次の3つです[2]。研修会社は、このことへの承諾書(支給申請承諾書)を出すことになっています[2]。
- 会社が返すべきお金について、会社と連帯して債務を負う
- 研修会社の名称などが公表される
- 5年間、その研修会社の研修は助成金の対象にならない
申請の代理人や研修会社が、不正を知っていて黙認した場合にも、返還の連帯債務が生じるとされています[2]。
つまり、計画届を出す日までに研修会社の関与が明らかになっていると、その研修会社の研修は助成金の対象になりません[2]。研修会社を選ぶときに、公表された会社でないかを確かめる理由がここにあります。
【論点3】契約の前に研修会社に確かめること|答えがあいまいなら申し込まない
危険なサインは、言葉だけでなく、契約の形にも出ます。契約書にサインする前に、次の点を研修会社に聞いてください。できれば、答えをメールなど文字で残してもらいます。
| 確かめること | 聞き方の例 | なぜ確かめるか |
|---|---|---|
| 受講料を全額、会社が払う契約か | 返金、キャッシュバック、クーポン、割引、無料のサービスは一切ありませんか? | 全額負担が必須要件。返金などを受けると支給されない[1][2] |
| 研修とは別の契約を求められていないか | 広告協力、アンケート、営業協力、役務契約など、研修以外の契約はありますか? | 協力金で負担を減らすのは、不正受給となった事例と同じ形[1][2] |
| 研修とツール導入が分かれているか | AIツールやシステムの導入は、研修と別の見積もり・請求ですか?無料になっていませんか? | ツールの導入費用は対象外。無料でシステムを導入した事例は不正受給とされた[1][2] |
| 助成金の有無で料金が変わらないか | 助成金を使わない場合も、同じ料金ですか? | 助成金を使う場合だけ高い料金にしていると、差額が経費として認められないことがある[2] |
| 申請手続きを誰がするか | 申請書の作成や提出は、社会保険労務士に頼む前提ですか? | 報酬を得て申請手続きを行えるのは社会保険労務士だけ。研修会社が無償とうたっても、受講料に手続きの対価が含まれると評価されると問題になる[2] |
| 支給申請承諾書に承諾できるか(研修会社が主催する研修の場合) | 支給申請承諾書(訓練実施者)に承諾していただけますか? | 不正に関与した場合の連帯債務や公表を承諾する書類で、申請に必要[2] |
| 「必ずもらえる」と言っていないか | 受給できなかった場合の扱いは、どう説明されていますか? | 支給の可否は労働局の審査で決まり、厚生労働省や労働局も受給を保証しない[2] |
不安なとき、判断に迷うときは、すぐに管轄の労働局へ相談するよう、リーフレットは呼びかけています。危険なサインに当てはまる勧誘を受けたときは、労働局への情報提供も求めています[1]。
【論点4】正しい流れ|会社が全額払う→審査→支給の順番は変わらない
正しい流れでは、お金は先に会社から出ていき、助成金は審査のあとに支給されます。この順番が逆になる話は、どこかがおかしいと考えてください。事業展開等リスキリング支援コースの場合、流れは次のとおりです[2]。
- 事前の準備:職業能力開発推進者を選び、社内の職業能力開発計画をつくって、社員に知らせる
- 計画届の提出:研修を始める日の6か月前から1か月前までの間に、労働局へ出す
- 研修の実施:計画どおりに行う。受講者は、自社の雇用保険の被保険者
- 受講料の支払い:支給申請日までに、研修の経費を会社が全額払う。返金や協力金などは受け取らない
- 支給申請:研修が終わった日の翌日から2か月以内に、労働局へ出す
- 審査と支給決定:労働局が審査し、支給か不支給かを決める。予算の範囲内で支給され、確認する項目が多いため、ほかの助成金より時間がかかる
受講料の全額がいったん会社から出ていくので、その資金を払えるかを先に確かめます。助成金が出なかった場合でも、研修を受けさせる価値があるかどうかで、申し込むかを決めるのが安全です。
事業展開等リスキリング支援コースは、令和4年度から8年度までの期間限定の助成金として作られました。年度の途中で制度が変わる場合もあります[2]。対象になる研修の条件や助成率は、AI研修に使える助成金で詳しく解説しています。
シス学の場合|助成金を使う場合も使わない場合も、研修の料金は同じです
シス学(システム経営学)は、AIエージェントを活用し、会社を「儲かるシステム」につくり変える経営学です。シス学 AI研修は、実訓練12時間で、社員が毎日行っている業務を題材に練習する研修です。
- 助成金を使う場合も使わない場合も、研修の料金は同じです
- 返金、キャッシュバック、協力金、広告協力の見返りなど、受講料を減らすお金のやりとりはしません
- 受講料はいったん全額を貴社でお支払いいただき、助成金は審査のあとに支給されます
- AIツールの導入や開発は、研修とは別のお見積もり・ご請求にします
- 申請の手続きは、社会保険労務士にご依頼ください(費用は貴社のご負担です)。研修の資料(カリキュラム、受講の記録、領収書)は、シス学からお渡しします
シス学では、仕事を「作業・確認・判断」に分けて、AIと社員と社長に割り振ります。この記事の「研修会社の提案書の点検」で分けると、次のようになります。
| 受け持つ人 | 仕事 | 中身 |
|---|---|---|
| AI | 作業 | 提案書・見積書・契約書から、危険なサインの言葉と、研修以外の契約が書かれた箇所を抜き出す |
| 社員 | 確認 | 抜き出した箇所を原文で確かめ、上のチェック表の7つを研修会社にメールで聞く |
| 社長 | 判断 | 答えを見て、契約するか、署名を止めて労働局に相談するかを決める |
中小企業が事業展開等リスキリング支援コースの対象になった場合、制度の内容は経費の75%(10時間以上100時間未満の研修は1人30万円が上限)です。対象は雇用保険の被保険者の方で、支給の可否と金額は管轄の労働局の審査で決まります。受給を保証するものではありません。
計画届は研修を始める日の1か月前までに必要なため、実施したい日の2〜3か月前のご相談が安全です。料金は、対象の業務と体制をお聞きしたうえで、無料相談でご案内します。まずは30分の無料相談から、日程と進め方をお伝えします。
【まず3日、次の30日で何をするか】
- 最初の3日: 手元の提案書、見積書、契約書を読み直します。「実質無料」「キャッシュバック」「広告協力」「協力金」「ツール無料」といった言葉や、研修とは別の契約がないかを確かめます。当てはまるものがあれば、署名や支払いをいったん止め、管轄の労働局に相談します。すでに申請していて心当たりがある場合も、早めに労働局へ相談してください。
- 次の30日: 研修会社に、上のチェック表の7つを文字で確かめます。申請を頼む社会保険労務士を決め、研修を始める日から逆算して、1か月前の計画届の期限を手帳に書き込みます。受講料の全額を先に払える資金繰りかも確かめます。
- 研修の日程を決めるまでに: どの仕事にAIを使うかを決め、その仕事をしている社員を受講者に選びます。助成金の条件は「職務に直結した研修」のため、ここが決まっていないと、条件に合う研修も組めません。進め方は業務の棚卸しのやり方で解説しています。
【参考資料(2026年10月22日時点の公表資料)】
- [1] 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク|人材開発支援助成金 NO不正受給「訓練経費」は無料になりません(リーフレット、滋賀労働局ホームページ掲載)
- [2] 厚生労働省|人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)
- [3] 神奈川労働局|人材開発支援助成金の不正受給に関与した訓練実施者の公表について(2026/10/2)
- [4] 富山労働局|人材開発支援助成金の不正受給に関与した訓練実施者の公表について(2026/7/31)
よくある質問
「助成金でAI研修が実質無料になる」と言われました。本当ですか?
なりません。人材開発支援助成金は、会社が全額払った研修の経費の一部を助成する制度で、事業主が訓練費を全額負担することが必須要件です。返金やキャッシュバック、協力金などを受け取ると、全額負担していないとみなされ、助成金は受給できません。利益が出ることも、仕組み上あり得ないとされています。
研修会社に勧められて申請した場合も、会社が責任を問われますか?
問われることがあります。労働局の公表資料では、不正受給をしようとしたのは申請した事業主で、研修会社はそれに関与した、という書き方です。不正受給と判断されると、会社名・代表者名の公表、不正受給額の全額返金と2割相当額・延滞金の支払いがあります。5年間は雇用関係助成金が支給されず、悪質な場合は刑事告訴の可能性もあります。
すでに勧誘どおりに申請してしまいました。どうすればいいですか?
すぐに管轄の労働局へ相談してください。労働局の調査などより前に、不正受給に当たると申し出ることを「自主申告」といいます。自主申告した場合、受給前であれば、また受給後でも受給額と違約金・延滞金をすぐに返した場合は、原則として会社名は公表されません。ただし、特に重大または悪質な場合は除かれます。
研修会社が「申請も無料で代行します」と言っています。頼んでいいですか?
注意が必要です。報酬を得て助成金の申請手続きを行えるのは、社会保険労務士だけです。研修会社が無償とうたっていても、受講料の中に手続きの対価が含まれていると評価されることがあります。その場合は社会保険労務士法第27条の問題が生じると、厚生労働省のパンフレットに書かれています。申請は会社が行い、手続きの代行は社会保険労務士に頼みます。
AI研修とAIツールの導入をセットにして、まとめて助成金を申請できますか?
できません。AI研修の費用は対象経費ですが、AIツールの導入費用は対象経費ではありません。研修を受ければ無料でシステムを導入する、という説明を受けて申請した例は、不正受給の事例としてリーフレットに載っています。研修とツールの導入は、別に見積もり・請求してもらいます。
「厚生労働省の委託」と書かれた助成金の案内がFAXで届きました。
厚生労働省や労働局・ハローワークは、このような勧誘に関与していません。厚生労働省から委託を受けたと装い、受給額の無料査定などをうたう書面を送る事業者がいるという情報が寄せられています。判断に迷うときは、管轄の労働局に問い合わせてください。

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