業務の棚卸しとは?AIを使う前に必要な理由
業務の棚卸しとは、会社で行っている仕事を一つずつ書き出し、一覧にすることです。誰が、どのくらいの頻度で、どれだけの時間をかけて、どんな手順で行っているかを書きます。倉庫の在庫を数えるように、仕事の「中身」を数えます。
書き出すと、見えてくることがあります。毎週くり返している仕事、特定の人しか手順を知らない仕事、昔からの習慣で続いているだけの仕事などです。
業務フロー図・マニュアルとの違い
似た言葉に、業務フロー図とマニュアルがあります。棚卸しは、これらを作る前の、仕事全体の一覧づくりです。
| 名前 | 何を書くか | 使う場面 |
|---|---|---|
| 業務の棚卸し | 会社にある仕事の一覧。担当、頻度、時間、手順の段数 | どの仕事から手をつけるかを決める |
| 業務フロー図 | 1つの仕事が、誰から誰へ、どの順で進むか | ムダや待ち時間を見つける |
| マニュアル | 1つの仕事の、具体的なやり方の手順 | 担当が変わっても同じ品質で進める |
なぜAIを使う前に必要なのか
AIは、任せる仕事と手順が決まっていないと使えません。中小企業庁が示した調査では、AIを活用していない中小企業が挙げた理由は、次のとおりでした。
| 理由 | 回答の割合 | 棚卸しが受け持てること |
|---|---|---|
| 活用する業務がイメージできていない | 63.4% | 仕事を書き出し、AIに任せる候補を具体的に挙げる |
| 活用を推進する人材が不足している | 40.0% | 担当者と一緒に書き出し、AIを試す担当を決める材料にする |
| 社内ルール・ガイドラインが整備されていない | 26.2% | 仕事ごとに扱う情報を確かめ、入力してよい範囲を決める材料にする |
白書にも、棚卸しの効果を示す分析があります。2023年版の小規模企業白書は、デジタル化を進める際の棚卸しを調べています。棚卸しができていると答えた企業ほど、デジタル化の効果を実感している割合が高い傾向がありました。
ただし、棚卸しが「十分にできている」と答えた企業は、どの従業員規模でも10%を下回っていました。「十分」か「ある程度」できている割合は、従業員21人以上の企業で約5割、20人以下の企業で約3割です。多くの会社が、まだ棚卸しを十分に行えていません。
2025年版の中小企業白書には、別の分析もあります。「業務の属人化・ブラックボックス化の防止」に取り組む事業者は、取り組まない事業者より、付加価値額の変化率が高い結果でした。属人化した仕事は、棚卸しで最初に見つかります。
棚卸しで書き出す項目|1つの仕事を1行で
棚卸しは、表計算ソフトの1行に1つの仕事を書く形で始められます。細かく書きすぎる必要はありません。次の7項目があれば、AIに任せられるかどうかを判断できます。
| 項目 | 書くこと | 見積書の書き方の見本 |
|---|---|---|
| 仕事の名前 | 「〇〇を△△する」と、動詞で書く | お客様への見積書を作る |
| 担当 | 今やっている人。複数いれば全員 | 社長、営業担当2名 |
| 頻度 | 1週間に何回か、月に何回か | 週に5回 |
| 1回の時間 | 準備から終わるまでの時間 | 1回40分 |
| 元になる情報 | 何を見て行うか(過去の書類、単価表、メール、LINE) | 過去の見積書、単価表、お客様からのメール |
| 手順 | ざっくり何段階か。人によって違う所に印を付ける | 4段階(条件の確認、単価の選択、金額の入力、見直し) |
| 困っていること | ミス、待ち時間、特定の人にしか分からない所 | 単価の決め方を、社長しか知らない |
時間の欄は、きっちり測る必要はありません。「だいたい40分」で十分です。大事なのは、あとで比べられるように、全員の分を同じ書き方でそろえることです。
社長自身の仕事も、書き出します。社長のところに集まっている仕事は、AIや社員に渡せる候補が多い場所です。見積書の最終確認、請求書の確認、社員からLINEで届く質問への返事などが当てはまります。
業務棚卸しのやり方|6つのステップ
進め方は、次の6つです。最初から全社でやらず、1つの部署か、社長自身の仕事から始めます。
- 仕事を書き出す:1週間のカレンダー、送受信したメール、LINEの履歴を見返して、やった仕事を書き出す。記憶だけに頼らない
- 1行にまとめる:「見積書を作る」「日報を確認する」のように、動詞で言い切る形にそろえる
- 頻度と時間を書く:週に何回、1回に何分かを、だいたいで書き込む
- 本人に確かめる:書き出した表を、実際にその仕事をしている社員に見てもらい、抜けと違いを直してもらう
- 作業・確認・判断に分ける:1つの仕事の中身を、3つに分ける(次の章)
- AIに向くかを見て、最初の1件を選ぶ:チェック表と優先順位で選び、いまの所要時間を測っておく
4番目の「本人に確かめる」は、飛ばさないでください。社長が思っている手順と、現場でやっている手順が、ずれていることがあります。
仕事を「作業」「確認」「判断」に分ける
書き出した仕事は、1つの塊のままでは、AIに任せられるか判断できません。仕事の中身を、「作業」「確認」「判断」の3つに分けます。
- 作業:資料から写す、下書きを作る、集計する、並べ替える。手順が決まっていて、人でなくても進められる部分
- 確認:作業の結果が合っているかを見る。数量、宛名、金額、条件を、元の資料と照らす
- 判断:決まりに書けない例外を決める。値引きに応じるか、取引を受けるか、断るか
見積書づくりを例にすると、次のように分けられます。
| 分け方 | 中身 | 誰が受け持つか |
|---|---|---|
| 作業 | 過去の見積書と単価表から、下書きを作る | AIと仕組み |
| 確認 | 数量、条件、宛名が、依頼のメールと合っているかを見る | 社員 |
| 判断 | 最後の金額を決める。値引きに応じるかを決める | 社長 |
ほかの仕事も、同じ形で分けられます。たとえば次のとおりです。
| 仕事 | 作業(下書き・転記など) | 確認 | 判断 |
|---|---|---|---|
| 日報 | 日報の文章から、要点と未対応の件を抜き出す | 担当者が、抜けと誤りを見る | 対応の優先順位を、社長が決める |
| 受注メール | メールの注文内容を、受注の入力画面へ写す | 担当者が、数量と納期を見る | 納期に間に合わない注文を、受けるかどうか社長が決める |
| 請求書 | 納品書と照らして、金額の差を一覧にする | 経理担当者が、差のある行を確かめる | 支払いを止めるかどうかを、社長が決める |
| LINEでの質問 | 過去の回答から、返事の下書きを作る | 先輩社員が、内容を見て送る | 前例のない質問には、社長が答える |
この3つに分けると、「仕事全部をAIに任せる」か「AIには無理」かの、二択ではなくなります。作業の部分だけをAIに渡し、確認と判断は人に残す、という選び方ができます。
AIに仕分けの案を出してもらう
分け方に迷うときは、AIに案を出してもらう方法もあります。社名や金額などの具体的な情報は入れず、仕事の名前と手順だけを書いて渡します。出てきた案は、その仕事をしている人が見て直します。
作業の部分は、手順書の元になる
AIに任せる作業は、手順を言葉にして渡す必要があります。この手順は、そのまま社内の手順書にもなります。担当者が休んでも、別の人が同じ手順で進められる土台になります。
AIに向く仕事・向かない仕事のチェック表
分けた「作業」の部分が、AIに向くかどうかを、次の5つの質問で見ます。
| 質問 | 「はい」のとき | 「いいえ」のとき |
|---|---|---|
| 週に何度も、同じ形でくり返す仕事か | 効果が出やすい | まず、仕事の手順をそろえる |
| 元になる資料が、データやメールで手元にあるか | そのままAIに渡せる | 紙の資料を写す作業が、先に要る |
| 手順を、文章で説明できるか | AIへの指示に書ける | 手順を人に聞いて、先に書き出す |
| 間違えても、確認の段階で気づけるか | 任せやすい | 確認の手順を、先に作る |
| 個人情報や取引先の機密を入れなくても進められるか | 進めやすい | 入力してよい範囲と、使うサービスを先に決める |
個人情報を生成AIに入力するときの注意は、個人情報保護委員会も呼びかけています。個人データを入れる場合は、入力した内容が機械学習に使われないかなど、サービス側の扱いを確かめます。
向きにくい仕事の例
- 毎回内容が違い、手順を説明できない仕事(新しい取引先との条件の交渉など)
- 間違いが大きな損失につながり、確認する手段がない仕事
- 相手との信頼関係そのものが価値になる場面(お詫びの電話、大事な取引先へのあいさつなど)
最初の1件の選び方|時間と失敗の影響で決める
時間の数え方
かかっている時間は、頻度に1回の時間をかけて、1週間あたりの合計にします。たとえば、見積書の作成が週に5回、1回40分なら、200分、つまり約3時間20分です。
| 仕事 | 頻度 | 1回の時間 | 1週間の合計 |
|---|---|---|---|
| 見積書の作成 | 週5回 | 40分 | 200分 |
| 日報の確認 | 週5回 | 20分 | 100分 |
| 請求書の確認 | 週1回 | 60分 | 60分 |
| LINEでの質問への返事 | 週10回 | 10分 | 100分 |
| 合計 | 460分(約7時間40分) |
合計が出たら、作業・確認・判断の別に、時間を足し直します。社長の時間のうち、「判断」以外に使っている時間がどのくらいあるかが見えてきます。その部分が、AIや社員に渡せる候補です。
選ぶ軸は2つ
棚卸しをすると、AIに向く仕事がいくつも見つかります。全部に手をつけず、最初の1件に絞ります。
選ぶ軸は2つです。かかっている時間(頻度と1回の時間をかけたもの)と、失敗したときの影響です。
| 失敗の影響が小さい | 失敗の影響が大きい | |
|---|---|---|
| 時間がかかっている | 最初に選ぶ。日報の要約、問い合わせへの返事の下書きなど | 2番目。確認の手順を先に作る。見積書、請求書の照合など |
| 時間があまりかかっていない | 余裕があるときに | 後回し |
中小企業庁の資料には、AIを活用している中小企業に、部門ごとの状況を聞いた調査があります。「活用している」と答えた割合は、次のとおりです。
- バックオフィス部門:73.4%
- 営業・販売・顧客対応部門:68.2%
- 製造・生産管理・物流部門:57.2%
AIの活用は、書類やメールを扱う部門から進んでいる様子がうかがえます。最初の1件も、バックオフィスや顧客対応の、書類とメールの仕事から探すと見つかりやすくなります。
選んだら、AIを使う前の所要時間を測っておきます。比べる材料がないと、効果が分かりません。
業務棚卸しでよくある失敗と対策
失敗1:書き出すこと自体が目的になる
一覧を作って満足し、次の一手が決まらないことがあります。対策:6つのステップの最後に、「最初の1件」と「いつまでに試すか」を決めます。
失敗2:社長が想像で書く
社長が思っている手順と、現場の手順が違うことがあります。対策:実際にやっている社員に表を見てもらい、直してもらいます。
失敗3:細かく書きすぎて、終わらない
ボタンを押す順番まで書き始めると、棚卸しが終わらなくなります。対策:最初は1つの仕事を5行以内で書きます。AIに任せると決めた仕事だけ、あとで詳しく書きます。
失敗4:その仕事をしている本人から、仕事を離せない
特定の人だけが手順を知っている仕事は、棚卸しで見つかる代表的な例です。本人が手放したがらないこともあります。対策:手順を書き出す役を、その本人にお願いし、ふだんの仕事が楽になると伝えます。
属人化のほどき方は、属人化を解消するには?で解説しています。
失敗5:一度やって終わりにする
仕事は、AIを入れたあとも変わります。対策:3か月に1回、同じ表を見直します。時間の変化と、新しく出てきた仕事を書き足します。
シス学の進め方|棚卸しから始めます
シス学(システムAI経営学)は、株式会社むさしAI研修のAI導入支援ブランドです。仕組み(システム)で回る会社をつくる経営を、AIで支えます。
シス学 AI戦略では、最初に、社長と担当者から仕事の流れを聞き、時間がかかっている仕事を一覧にします。見積書、請求書、日報、受注メール、LINEでの質問など、毎日くり返す仕事を、「作業」「確認」「判断」に分けます。
そのうえで、AIに任せる仕事の候補と順番を決め、導入計画にまとめます。社員向けのAI研修や、仕組みづくりのAI開発も、同じチームで担当します。
全国オンラインで対応し、初回のご相談は無料です。費用は、業務の内容を伺ってお見積もりします。日時を選んで無料相談を予約できます。
まとめ
- 業務の棚卸しは、仕事を一つずつ書き出し、担当・頻度・時間・手順を一覧にすること。AIを使う前の作業
- 仕事は「作業」「確認」「判断」に分ける。作業の部分だけをAIに渡し、確認と判断は人に残す選び方ができる
- 最初の1件は、時間がかかっていて、失敗の影響が小さい仕事から選ぶ
- 選んだら、AIを使う前の所要時間を測っておく
まずは、社長自身の1週間の仕事を、1行ずつ書き出してみてください。書き終えたら、いちばん時間がかかっている作業を1つ選びます。進め方全体は、中小企業のAI導入の進め方にまとめています。
よくある質問
業務の棚卸しとは何ですか?
会社の仕事を一つずつ書き出し、担当、頻度、時間、手順を一覧にすることです。仕事の中身が見えるようになり、AIに任せる仕事や、手順をそろえる仕事を選ぶ材料になります。
業務棚卸しは、何から始めればよいですか?
社長自身の1週間の仕事から始めるのがおすすめです。カレンダー、メール、LINEの履歴を見返して、1行ずつ書き出します。全社で始めるより、1つの部署か社長の仕事に絞るほうが進みます。
棚卸しは、どのくらいの時間がかかりますか?
対象の広さで変わります。最初は、1人の1週間の仕事だけに絞ると、短い時間で一巡できます。細かく書きすぎず、「だいたい」で進めるのがコツです。
棚卸しにAIを使ってもよいですか?
使えます。たとえば、メモした仕事の一覧をAIに渡して、「作業」「確認」「判断」への仕分け案を出させる使い方があります。ただし、社内の資料や顧客の情報を入れるときは、入力してよい範囲を先に決めます。仕分けの最終判断は、その仕事をしている人が行います。
棚卸しをしても、AIに任せる仕事が見つからないことはありますか?
あります。その場合でも、棚卸しは無駄になりません。手順が人によって違う仕事や、特定の人にしか分からない仕事が見えるため、先に手順をそろえる作業が見つかります。




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