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業務の棚卸しとは?AIに任せる仕事の見つけ方と、進め方の6ステップ

机をはさんで、経営者が棒グラフの載った資料を指しながら、向かいの人に説明している様子

AIを使ってみたい。でも、自分の会社のどの仕事に使えばいいのか、見当がつかない。AIについて調べ始めた社長が、最初にぶつかる悩みの一つです。

中小企業庁の資料でも、AIを活用していない中小企業の理由で最も多いのは、「活用する業務がイメージできていない」でした。ツールの名前を覚える前に、まず自社の仕事を、目に見える形にする必要があります。その作業が「業務の棚卸し」です。

この記事では、業務の棚卸しとは何か、AIに任せる仕事をどう見つけるかを、見積書や日報などの例で解説します。

業務の棚卸しとは?AIを使う前に必要な理由

業務の棚卸しとは、会社で行っている仕事を一つずつ書き出し、一覧にすることです。誰が、どのくらいの頻度で、どれだけの時間をかけて、どんな手順で行っているかを書きます。倉庫の在庫を数えるように、仕事の「中身」を数えます。

書き出すと、見えてくることがあります。毎週くり返している仕事、特定の人しか手順を知らない仕事、昔からの習慣で続いているだけの仕事などです。

業務フロー図・マニュアルとの違い

似た言葉に、業務フロー図とマニュアルがあります。棚卸しは、これらを作る前の、仕事全体の一覧づくりです。

棚卸し・業務フロー図・マニュアルの違い
名前何を書くか使う場面
業務の棚卸し会社にある仕事の一覧。担当、頻度、時間、手順の段数どの仕事から手をつけるかを決める
業務フロー図1つの仕事が、誰から誰へ、どの順で進むかムダや待ち時間を見つける
マニュアル1つの仕事の、具体的なやり方の手順担当が変わっても同じ品質で進める

なぜAIを使う前に必要なのか

AIは、任せる仕事と手順が決まっていないと使えません。中小企業庁が示した調査では、AIを活用していない中小企業が挙げた理由は、次のとおりでした。

AIを活用していない理由(中小企業、複数回答の上位3つ。n=3,888)
理由回答の割合棚卸しが受け持てること
活用する業務がイメージできていない63.4%仕事を書き出し、AIに任せる候補を具体的に挙げる
活用を推進する人材が不足している40.0%担当者と一緒に書き出し、AIを試す担当を決める材料にする
社内ルール・ガイドラインが整備されていない26.2%仕事ごとに扱う情報を確かめ、入力してよい範囲を決める材料にする

白書にも、棚卸しの効果を示す分析があります。2023年版の小規模企業白書は、デジタル化を進める際の棚卸しを調べています。棚卸しができていると答えた企業ほど、デジタル化の効果を実感している割合が高い傾向がありました。

ただし、棚卸しが「十分にできている」と答えた企業は、どの従業員規模でも10%を下回っていました。「十分」か「ある程度」できている割合は、従業員21人以上の企業で約5割、20人以下の企業で約3割です。多くの会社が、まだ棚卸しを十分に行えていません。

2025年版の中小企業白書には、別の分析もあります。「業務の属人化・ブラックボックス化の防止」に取り組む事業者は、取り組まない事業者より、付加価値額の変化率が高い結果でした。属人化した仕事は、棚卸しで最初に見つかります。

棚卸しで書き出す項目|1つの仕事を1行で

棚卸しは、表計算ソフトの1行に1つの仕事を書く形で始められます。細かく書きすぎる必要はありません。次の7項目があれば、AIに任せられるかどうかを判断できます。

棚卸しシートの項目と、見積書の書き方の見本
項目書くこと見積書の書き方の見本
仕事の名前「〇〇を△△する」と、動詞で書くお客様への見積書を作る
担当今やっている人。複数いれば全員社長、営業担当2名
頻度1週間に何回か、月に何回か週に5回
1回の時間準備から終わるまでの時間1回40分
元になる情報何を見て行うか(過去の書類、単価表、メール、LINE)過去の見積書、単価表、お客様からのメール
手順ざっくり何段階か。人によって違う所に印を付ける4段階(条件の確認、単価の選択、金額の入力、見直し)
困っていることミス、待ち時間、特定の人にしか分からない所単価の決め方を、社長しか知らない

時間の欄は、きっちり測る必要はありません。「だいたい40分」で十分です。大事なのは、あとで比べられるように、全員の分を同じ書き方でそろえることです。

社長自身の仕事も、書き出します。社長のところに集まっている仕事は、AIや社員に渡せる候補が多い場所です。見積書の最終確認、請求書の確認、社員からLINEで届く質問への返事などが当てはまります。

業務棚卸しのやり方|6つのステップ

進め方は、次の6つです。最初から全社でやらず、1つの部署か、社長自身の仕事から始めます。

  1. 仕事を書き出す:1週間のカレンダー、送受信したメール、LINEの履歴を見返して、やった仕事を書き出す。記憶だけに頼らない
  2. 1行にまとめる:「見積書を作る」「日報を確認する」のように、動詞で言い切る形にそろえる
  3. 頻度と時間を書く:週に何回、1回に何分かを、だいたいで書き込む
  4. 本人に確かめる:書き出した表を、実際にその仕事をしている社員に見てもらい、抜けと違いを直してもらう
  5. 作業・確認・判断に分ける:1つの仕事の中身を、3つに分ける(次の章)
  6. AIに向くかを見て、最初の1件を選ぶ:チェック表と優先順位で選び、いまの所要時間を測っておく

4番目の「本人に確かめる」は、飛ばさないでください。社長が思っている手順と、現場でやっている手順が、ずれていることがあります。

仕事を「作業」「確認」「判断」に分ける

書き出した仕事は、1つの塊のままでは、AIに任せられるか判断できません。仕事の中身を、「作業」「確認」「判断」の3つに分けます。

  • 作業:資料から写す、下書きを作る、集計する、並べ替える。手順が決まっていて、人でなくても進められる部分
  • 確認:作業の結果が合っているかを見る。数量、宛名、金額、条件を、元の資料と照らす
  • 判断:決まりに書けない例外を決める。値引きに応じるか、取引を受けるか、断るか

見積書づくりを例にすると、次のように分けられます。

見積書づくりを3つに分けた例(書き方の見本)
分け方中身誰が受け持つか
作業過去の見積書と単価表から、下書きを作るAIと仕組み
確認数量、条件、宛名が、依頼のメールと合っているかを見る社員
判断最後の金額を決める。値引きに応じるかを決める社長

ほかの仕事も、同じ形で分けられます。たとえば次のとおりです。

ほかの仕事の分け方の例(書き方の見本)
仕事作業(下書き・転記など)確認判断
日報日報の文章から、要点と未対応の件を抜き出す担当者が、抜けと誤りを見る対応の優先順位を、社長が決める
受注メールメールの注文内容を、受注の入力画面へ写す担当者が、数量と納期を見る納期に間に合わない注文を、受けるかどうか社長が決める
請求書納品書と照らして、金額の差を一覧にする経理担当者が、差のある行を確かめる支払いを止めるかどうかを、社長が決める
LINEでの質問過去の回答から、返事の下書きを作る先輩社員が、内容を見て送る前例のない質問には、社長が答える

この3つに分けると、「仕事全部をAIに任せる」か「AIには無理」かの、二択ではなくなります。作業の部分だけをAIに渡し、確認と判断は人に残す、という選び方ができます。

AIに仕分けの案を出してもらう

分け方に迷うときは、AIに案を出してもらう方法もあります。社名や金額などの具体的な情報は入れず、仕事の名前と手順だけを書いて渡します。出てきた案は、その仕事をしている人が見て直します。

作業の部分は、手順書の元になる

AIに任せる作業は、手順を言葉にして渡す必要があります。この手順は、そのまま社内の手順書にもなります。担当者が休んでも、別の人が同じ手順で進められる土台になります。

AIに向く仕事・向かない仕事のチェック表

分けた「作業」の部分が、AIに向くかどうかを、次の5つの質問で見ます。

AIに任せられるかを見る5つの質問
質問「はい」のとき「いいえ」のとき
週に何度も、同じ形でくり返す仕事か効果が出やすいまず、仕事の手順をそろえる
元になる資料が、データやメールで手元にあるかそのままAIに渡せる紙の資料を写す作業が、先に要る
手順を、文章で説明できるかAIへの指示に書ける手順を人に聞いて、先に書き出す
間違えても、確認の段階で気づけるか任せやすい確認の手順を、先に作る
個人情報や取引先の機密を入れなくても進められるか進めやすい入力してよい範囲と、使うサービスを先に決める

個人情報を生成AIに入力するときの注意は、個人情報保護委員会も呼びかけています。個人データを入れる場合は、入力した内容が機械学習に使われないかなど、サービス側の扱いを確かめます。

向きにくい仕事の例

  • 毎回内容が違い、手順を説明できない仕事(新しい取引先との条件の交渉など)
  • 間違いが大きな損失につながり、確認する手段がない仕事
  • 相手との信頼関係そのものが価値になる場面(お詫びの電話、大事な取引先へのあいさつなど)

最初の1件の選び方|時間と失敗の影響で決める

時間の数え方

かかっている時間は、頻度に1回の時間をかけて、1週間あたりの合計にします。たとえば、見積書の作成が週に5回、1回40分なら、200分、つまり約3時間20分です。

1週間の時間を合計した見本(計算のしかたの例で、実際の会社の数字ではありません)
仕事頻度1回の時間1週間の合計
見積書の作成週5回40分200分
日報の確認週5回20分100分
請求書の確認週1回60分60分
LINEでの質問への返事週10回10分100分
合計460分(約7時間40分)

合計が出たら、作業・確認・判断の別に、時間を足し直します。社長の時間のうち、「判断」以外に使っている時間がどのくらいあるかが見えてきます。その部分が、AIや社員に渡せる候補です。

選ぶ軸は2つ

棚卸しをすると、AIに向く仕事がいくつも見つかります。全部に手をつけず、最初の1件に絞ります。

選ぶ軸は2つです。かかっている時間(頻度と1回の時間をかけたもの)と、失敗したときの影響です。

最初の1件を選ぶ表
失敗の影響が小さい失敗の影響が大きい
時間がかかっている最初に選ぶ。日報の要約、問い合わせへの返事の下書きなど2番目。確認の手順を先に作る。見積書、請求書の照合など
時間があまりかかっていない余裕があるときに後回し

中小企業庁の資料には、AIを活用している中小企業に、部門ごとの状況を聞いた調査があります。「活用している」と答えた割合は、次のとおりです。

  • バックオフィス部門:73.4%
  • 営業・販売・顧客対応部門:68.2%
  • 製造・生産管理・物流部門:57.2%

AIの活用は、書類やメールを扱う部門から進んでいる様子がうかがえます。最初の1件も、バックオフィスや顧客対応の、書類とメールの仕事から探すと見つかりやすくなります。

選んだら、AIを使う前の所要時間を測っておきます。比べる材料がないと、効果が分かりません。

業務棚卸しでよくある失敗と対策

失敗1:書き出すこと自体が目的になる

一覧を作って満足し、次の一手が決まらないことがあります。対策:6つのステップの最後に、「最初の1件」と「いつまでに試すか」を決めます。

失敗2:社長が想像で書く

社長が思っている手順と、現場の手順が違うことがあります。対策:実際にやっている社員に表を見てもらい、直してもらいます。

失敗3:細かく書きすぎて、終わらない

ボタンを押す順番まで書き始めると、棚卸しが終わらなくなります。対策:最初は1つの仕事を5行以内で書きます。AIに任せると決めた仕事だけ、あとで詳しく書きます。

失敗4:その仕事をしている本人から、仕事を離せない

特定の人だけが手順を知っている仕事は、棚卸しで見つかる代表的な例です。本人が手放したがらないこともあります。対策:手順を書き出す役を、その本人にお願いし、ふだんの仕事が楽になると伝えます。

属人化のほどき方は、属人化を解消するには?で解説しています。

失敗5:一度やって終わりにする

仕事は、AIを入れたあとも変わります。対策:3か月に1回、同じ表を見直します。時間の変化と、新しく出てきた仕事を書き足します。

シス学の進め方|棚卸しから始めます

シス学(システムAI経営学)は、株式会社むさしAI研修のAI導入支援ブランドです。仕組み(システム)で回る会社をつくる経営を、AIで支えます。

シス学 AI戦略では、最初に、社長と担当者から仕事の流れを聞き、時間がかかっている仕事を一覧にします。見積書、請求書、日報、受注メール、LINEでの質問など、毎日くり返す仕事を、「作業」「確認」「判断」に分けます。

そのうえで、AIに任せる仕事の候補と順番を決め、導入計画にまとめます。社員向けのAI研修や、仕組みづくりのAI開発も、同じチームで担当します。

全国オンラインで対応し、初回のご相談は無料です。費用は、業務の内容を伺ってお見積もりします。日時を選んで無料相談を予約できます。

まとめ

  • 業務の棚卸しは、仕事を一つずつ書き出し、担当・頻度・時間・手順を一覧にすること。AIを使う前の作業
  • 仕事は「作業」「確認」「判断」に分ける。作業の部分だけをAIに渡し、確認と判断は人に残す選び方ができる
  • 最初の1件は、時間がかかっていて、失敗の影響が小さい仕事から選ぶ
  • 選んだら、AIを使う前の所要時間を測っておく

まずは、社長自身の1週間の仕事を、1行ずつ書き出してみてください。書き終えたら、いちばん時間がかかっている作業を1つ選びます。進め方全体は、中小企業のAI導入の進め方にまとめています。

よくある質問

業務の棚卸しとは何ですか?

会社の仕事を一つずつ書き出し、担当、頻度、時間、手順を一覧にすることです。仕事の中身が見えるようになり、AIに任せる仕事や、手順をそろえる仕事を選ぶ材料になります。

業務棚卸しは、何から始めればよいですか?

社長自身の1週間の仕事から始めるのがおすすめです。カレンダー、メール、LINEの履歴を見返して、1行ずつ書き出します。全社で始めるより、1つの部署か社長の仕事に絞るほうが進みます。

棚卸しは、どのくらいの時間がかかりますか?

対象の広さで変わります。最初は、1人の1週間の仕事だけに絞ると、短い時間で一巡できます。細かく書きすぎず、「だいたい」で進めるのがコツです。

棚卸しにAIを使ってもよいですか?

使えます。たとえば、メモした仕事の一覧をAIに渡して、「作業」「確認」「判断」への仕分け案を出させる使い方があります。ただし、社内の資料や顧客の情報を入れるときは、入力してよい範囲を先に決めます。仕分けの最終判断は、その仕事をしている人が行います。

棚卸しをしても、AIに任せる仕事が見つからないことはありますか?

あります。その場合でも、棚卸しは無駄になりません。手順が人によって違う仕事や、特定の人にしか分からない仕事が見えるため、先に手順をそろえる作業が見つかります。

出典・参考

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