はじめに|AIは社長の壁打ち相手になるのか
壁打ちとは、考えを相手に話し、質問や反論を受けながら、自分の考えを整理することです。答えをもらう「相談」と違い、決めるのは話した本人です。AIは、夜でも休日でも、何度でも、社内の人間関係を気にせずに付き合ってくれる相手になります。
一人で考えると起きる3つのこと
| 起きること | 例 | 壁打ちで変わること |
|---|---|---|
| 思い込みに合う情報ばかり集める | 値上げしたいときに、値上げがうまくいった話ばかり目に入る | 反論役を頼むと、根拠の弱い所が先に見える(用途4) |
| 決めるのが先延ばしになる | 同じことを何週間も考え続ける | 論点を3つに絞ると、何を決めればよいかがはっきりする(用途1) |
| 選択肢が自分の経験の中だけになる | 「やる」「やらない」の2つしか考えない | 時期や規模を変えた案、外に頼む案まで並ぶ(用途3) |
国の調査に見る、中小企業のAIの使われ方
| 項目 | 割合 | 答えた企業 |
|---|---|---|
| AIを導入している(一部の業務または全社) | 20.4% | 回答した中小企業(n=1,647) |
| 導入しているAIのうち「生成AI(文章・資料作成、アイデア出し)」 | 82.6% | AIを導入している企業(n=322) |
| 経営・企画部門(経営の意思決定に関する)でAIを導入している | 58.5% | AIを導入している企業(n=333) |
| 経営・企画部門でAIを入れて「業務効率化/作業時間の短縮」に効果があった | 82.6% | その部門でAIを導入している企業(n=155) |
| AIの導入後も効率化が難しいと感じる業務「人の判断が必要な業務(営業提案、顧客折衝など)」 | 67.1% | 回答した企業(n=1,539、複数回答) |
| 同じく「経営判断や戦略立案に関する業務」 | 31.3% | 回答した企業(n=1,539、複数回答) |
経営・企画の仕事でAIを使う会社は多く、使った会社の8割強が効率化の効果を感じています。一方で、経営判断や戦略立案はAIでは効率化しにくいという答えも3割ありました。壁打ちは、この2つの間にある使い方です。判断そのものはAIに渡さず、判断の前の「整理」と「抜けの点検」にAIを使います。
AIの壁打ちが向く場面と、向かない場面
| 向く場面 | 向かない場面(人がやる) |
|---|---|
| 頭の中のことを書き出し、論点を整理する | 最後に決めること(金額、採用、借入、撤退) |
| 選択肢を広げ、比べる軸を決める | 社員や取引先の気持ちを汲むこと。相手と直接話す |
| 自分の案への反論や、見落としを出させる | 最新の数字や相場をそのまま使うこと。元の資料で確かめる |
| お客様・社員・銀行など、立場を変えて読ませる | 気持ちが沈んでいるときの相談。信頼できる人や専門家に話す |
AIは「同意しがち」と知っておく
ChatGPTを提供するOpenAIは、2025年4月29日の公式ブログで、前の週に行ったChatGPTのGPT-4oの更新を取り消したと発表しました。更新後の応答が、お世辞が過ぎる、同意しすぎる(英語で sycophantic)ものになっていたためです。OpenAIは、高評価・低評価のボタンなど利用者の反応を学習に取り入れています。この更新では目先の反応を重く見すぎた、と説明しています。AIは、使う人の考えに寄った答えを返すことがあります。壁打ちでは「賛成してほしい」聞き方をやめ、反論や弱点を頼む聞き方にします(用途4)。
入れてはいけない情報
- 個人情報保護委員会は、事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入れる場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめるよう求めています。社員やお客様の名前は「社員A」「顧客1」に置き換えます
- 同じ注意喚起は、本人の同意なく個人データを入れ、それが応答の出力以外の目的で扱われると、法律に違反するおそれがあるとしています。入れる場合は、そのサービスが入力を機械学習に使わないことなどを確かめます
- 一般の利用者向けの留意点では、応答結果に不正確な内容が含まれることがある、とも注意しています。AIの答えは材料として扱い、数字と事実は元の資料で確かめます
- 決算の数字や取引の条件など社外に出していない情報は、社内で入れてよい情報の決まりを先に作ります。作り方は生成AIの社内ルールの作り方で解説しています
準備|毎回貼る「前提の文」をつくる(会社のこと・判断の基準・AIへの指示)
AIは会話のたびに、あなたの会社を知らない状態から始まります。毎回説明し直さずに済むように、前提の文を1つ作っておきます。中身は3つのかたまりです。
| かたまり | 書くこと | 書く理由 |
|---|---|---|
| 会社のこと | 業種、地域、社員数、売上の規模、主な商品、主なお客様 | 大企業向けの大がかりな案など、規模に合わない答えを減らす |
| 社長の判断の基準 | いちばん大事にしていること、やらないと決めていること、決め方のくせ(数字で決める、直感で決めて数字で確かめる など) | 「やらないこと」を書くと、その方向の案が出にくくなる |
| AIへの指示 | 弱点から挙げる、結論→根拠→次にやることの順、事実と推測を分ける、言い切らない、わからなければ質問で返す | 同意ばかりする、もっともらしく言い切る、を防ぐ |
会話の最初に貼るときは、最後に「覚えたら『了解』とだけ答えてください」と足すと、AIがいきなり長い答えを書き始めずに済みます。下のプロジェクトやスキルの指示の欄に入れるときは、この一文は足しません。足すと、質問しても「了解」だけが返ってくることがあります。⑦は、用途2のように「質問だけしてほしい」ときに、前提の文の答え方とぶつからないようにするためです。
前提の文を保存しておける機能(2026年10月23日に各社の公式ヘルプで確認)
| サービス | 機能の名前 | できること |
|---|---|---|
| ChatGPT(OpenAI) | プロジェクト | 関連するチャット・ファイル・指示を1か所にまとめる。プロジェクトの指示はそのプロジェクトの中だけで使われ、全体のカスタム指示より優先される。使えるかどうかはプランとワークスペースの設定による |
| Claude(Anthropic) | プロジェクト | プロジェクトごとにチャット履歴と資料(ナレッジ)を持ち、プロジェクトごとに指示を決められる。無料アカウントを含むすべての利用者が使え、無料では5件まで作れる |
| Gemini(Google) | スキル(これまでの Gem) | Gem は、カスタム指示とファイル(端末、Googleドライブ、NotebookLMから追加)を保存して、回答を自分の用途に合わせる機能。Google は Gem から「スキル」への移行を進めている。仕事用のアカウントには別の規約が適用される場合がある |
Google Workspace の管理者ヘルプ「Gem からスキルへの移行について」(2026年9月30日更新)によると、ビジネスとエンタープライズのプランでは、2027年3月1日以降、Gem の作成・編集・使用ができなくなります。Gemini アプリに残った Gem は、下書きのスキルに自動で移ります。前提の文の原本を文書に残しておくと、移すときに困りません。移行の日程はGeminiで業務効率化するやり方にまとめています。
前提の文を「指示」の欄に貼り、価格表や月ごとの売上の一覧など、くり返し使う資料をファイルとして入れておきます。値決め、採用、新規事業のようにテーマごとに分けておくと、前の話の続きから始められます。会社で使うときのプランごとの料金とデータの扱いは、法人向け生成AIの料金比較にまとめています。
用途1【頭の整理】思いつくままに書き出し、今月決める論点を3つに絞る
こんな課題を解決
「何かを変えないといけない」とは感じているのに、何から考えればいいかが決まりません。売上のこと、人のこと、自分の体のことが、頭の中で同時に回っています。
どう解決したか
最初は整理しようとせず、気になっていることを全部書き出します。スマートフォンの音声入力で話した文字でも構いません。AIには、書いたことを「事実」「解釈」「気持ち」「決めること」に分けさせ、今月中に決める論点を3つまで絞らせます。
ポイント
- 「気持ち」に分けられたものは、事実で確かめられないかを見直します。不安の多くは、数字を1つ見ると小さくなります
- 3つの論点のどれから決めるかは、社長が選びます
- 「足りない情報」は、社員に調べてもらう仕事の一覧として使えます
用途2【質問役】AIに質問させて、考えを自分の言葉にする
こんな課題を解決
考えはあるのに、説明しようとすると言葉になりません。社員に話すと「よくわからない」と言われてしまいます。
どう解決したか
AIに答えさせるのではなく、質問させます。1問ずつ聞かせ、答えがあいまいなときは具体例や数字を聞き返させます。最後に、社長の答えだけを使って考えを300字にまとめさせると、社員に話す前の下書きになります。
ポイント
- 質問は10問ほどで止めます。長く続けると、同じ話のくり返しになります
- 300字のまとめに、自分が言っていない言葉が混ざっていたら、削らせます
- 「まだ答えが出ていない点」は、次の壁打ちのテーマにします
用途3【方針を決める】選択肢を広げ、比べる軸を決めて表にする
こんな課題を解決
「やる」か「やらない」かの2つで悩み、何週間も決まりません。比べているつもりでも、比べる物差しが毎回変わっています。
どう解決したか
時期をずらす、規模を小さくして試す、外に頼む、といった案を足して、選択肢を5〜7個に広げさせます。比べる軸は社長が先に決め、AIには「各マスで何がわかれば評価できるか」を書かせます。点数はつけさせません。
ポイント
- 比べる軸とその重みは社長が決めます。前提の文の「やらないこと」に当たる案は、この段階で外します
- AIに点数をつけさせると、根拠のない数字が判断を引っ張ります。点は、確かめた情報をもとに社長が入れます
- 確かめる情報は、社員に分担して調べてもらいます
用途4【反論役】自分の案の弱点を、遠慮なく出させる
こんな課題を解決
自分の案に賛成する理由ばかりが浮かびます。社員は、社長の案に反対の意見を言いにくいものです。
どう解決したか
AIに、反対する立場をはっきり割り当てます。さらに「1年後に失敗していたとしたら、理由は何か」と聞くと、起こりそうな失敗を具体的な話として出させられます。失敗の前ぶれとして見ておく数字まで出させると、始めたあとの見張り役にもなります。
ポイント
- 弱点が出ても、すぐに案を捨てません。どれが本当に起こりそうかは、社長が現場の事実で判断します
- 話の途中でAIが賛成に戻ってきたら、「反対の立場を続けてください」と言い直します
- 「1年後に失敗していたら」の問いは、社員との会議でもそのまま使えます。社員が反対意見を出しやすくなります
用途5【立場を変える】お客様・社員・取引先・銀行の目で読ませる
こんな課題を解決
自分の目線だけで考え、相手がどう受け取るかを読み違えます。発表してから「そう受け取られるとは思わなかった」となります。
どう解決したか
同じ案を、立場の違う4人の目で読ませます。立場ごとに「最初に思うこと」「心配すること」「聞いてきそうな質問」を出させ、説明の順番の案までまとめさせます。
ポイント
- AIの答えは想像です。実際のお客様と社員に1〜2人ずつ直接聞いて、確かめます
- 想定の質問への答えを先に用意しておくと、説明会や面談で慌てません
- 誰に、どの順番で伝えるかは社長が決めます
用途6【新規事業】正解ではなく、確かめるべき仮説を出させる
こんな課題を解決
新しい事業の案はあるのに、うまくいくかわからず動けません。AIに「この事業は成功しますか」と聞いても、当たり障りのない答えしか返ってきません。
どう解決したか
成功の予想は求めません。案を「本当である必要がある前提(仮説)」に分けさせ、外れたときの損が大きいものを選び、小さく安く確かめる方法を出させます。続けるかやめるかの基準も、試す前に決めておきます。
ポイント
- 「続ける/やめる」の基準は、試す前に社長が決めて書き残します。試したあとに基準を動かさないためです
- お客様への聞き取りや試し売りは、社員と分担します
- 確かめたあと、融資や補助金のために計画書にまとめる段階は、事業計画書×AI プロンプト10選で項目別に解説しています
用途7【値決め】値上げの案を、お客様の受け止め方と原価の両方から点検する
こんな課題を解決
原価は上がっているのに、値上げでお客様が離れるのが怖くて決められません。何を根拠に価格を決めればよいかがわかりません。
どう解決したか
材料は人が集め、AIには点検を頼みます。観光庁の事例集に載る愛知県の旅館「魚と貝のうまい宿 玉川」は、食材費や人件費の上昇で値上げが必要でした。ただ、値上げのあとに客数が減った経験があり、何を根拠に価格を決めればよいか悩んでいました。
| 決めたこと | 中身 |
|---|---|
| 日別に価格を変えない | リピーターが約3割いるため、日によって価格を変えるやり方はなじまないと考えた |
| 「価格満足度」を3つの窓口から集める | 客室に置いたアンケート、宿泊予約サイトの口コミ、自社サイト経由の評価 |
| 原価の動きと合わせて決める | 集めた価格満足度と原価の動向の両方を見て、価格を改定する体制にした |
| 直接の予約を優遇する | 自社サイトからの予約に限り、予約サイトより約5%安くし、オプションも付けた |
| 結果 | 直接の予約の割合を高く保ち、平均の客室単価を上げながら、リピーターも保てた |
このように集めた材料をAIに渡し、言えること・言えないことを分けさせます。
ポイント
- 原価と粗利の計算は、経理の担当が表計算ソフトで検算します
- 原価の上がった分から目指す取引価格を試算するには、中小機構の「価格転嫁検討ツール」も使えます。省力化投資補助金の参考ガイドで紹介されています
- 競合の価格は、相手の公式サイトで最新のものかを確かめます。他社を悪く書く表現は使いません
- 値上げの幅と時期は社長が決めます
用途8【人と体制】人を採るか、外に頼むか、仕事を減らすかを比べる
こんな課題を解決
忙しくなり「人を増やすしかない」と思うものの、人件費は重く、採ってから合わなかったときも心配です。
どう解決したか
正社員、パート、外部への依頼、仕事そのものを減らす、の4つを同じ物差しで並べさせます。先に、あふれている仕事の中身と時間を数えてから使うと、答えが具体的になります。
ポイント
- あふれている仕事の中身と時間は、1〜2週間、社員に記録してもらってから使います。数え方は業務の棚卸しとは?で解説しています
- 応募者や社員の名前・経歴などの個人情報は入れません。人の評価や採否の判断に、AIの答えを使いません
- 採るかどうかと条件は、社長が決めます
用途9【データを読ませる】公的なデータや自社の数字を渡して、打ち手を考える
こんな課題を解決
地域や業界の資料を手に入れても、自社が何をすればいいかに結びつきません。読むだけで終わってしまいます。
どう解決したか
前提の文で自社の立場を伝えたうえで、データを読ませます。玉川は、地域のDMO(観光地域づくり法人)が持つ人流データを生成AIに読ませ、「DMOのデータをまとめて、施設への提言を考えて」と頼んでいます。答えには、来訪者の属性や宿泊率の分析と、どんなテーマの宿になるべきか、誰を狙うべきかの助言が含まれていました(事例の節)。下のプロンプトは、これに「データにないことは書かない」「打ち手ごとに確かめること」を足した形です。
ポイント
- データの出典と年を、公式のページで確かめてから貼ります
- 打ち手の案は仮説です。どれを試すかは社長が選び、確かめ方は用途6で決めます
- 月ごとの売上や客層など自社の数字も一緒に渡すと、案が具体的になります。入れてよい情報の範囲で渡します
用途10【決めたあと】社員への説明の文と、1か月後の見直しの質問をつくる
こんな課題を解決
決めたのに、社員に伝わらず動きません。数か月たつと、なぜそう決めたのかもあいまいになっています。
どう解決したか
決めた内容と理由を渡し、社員に話す説明の文と、社員が聞きそうな質問への答えを作らせます。あわせて、1か月後に「決めたときの前提は当たっていたか」を見直す質問を作らせておきます。
ポイント
- 説明の文は、社長が自分の言葉に直してから話します
- 「社長に確認」が付いた質問は、話す前に答えを決めておきます
- 決めた理由を記録して、似た判断の基準にしていくやり方は、経営にAIを使う方法で解説しています
1回の壁打ちの進め方|5つのステップと使うプロンプト
10の用途は、1つのテーマを決めるまでの流れに並べると、次の5つのステップになります。大きなテーマは、1回で終わらせず、ステップごとに日を分けても構いません。
| ステップ | やること | 使う用途 | できあがるもの |
|---|---|---|---|
| 1 書き出す | 気になっていることを整理せずに全部出す | 用途1 | 今月決める論点(3つまで) |
| 2 ありたい姿を決める | 「いつまでに、何が、どれだけ」の形で目指す状態を言葉にする | 用途2 | 300字の考えのまとめ |
| 3 選択肢を広げる | 時期・規模・やり方を変えた案、やらない案まで並べる | 用途3・6 | 5〜7個の選択肢と、確かめる情報 |
| 4 比べて、弱点を見る | 比べる軸で並べ、反論と立場を変えた読みで点検する | 用途3・4・5・7・8・9 | 比べる表、弱点と手当て |
| 5 決めて、伝える | 社長が決め、社員への説明と見直しの日を決める | 用途10 | 説明の文、1か月後の見直しの質問 |
ステップ4で確かめる情報がそろわないうちは、ステップ5に進みません。そろえる期限と担当を決めて、いったん止めます。
事例|生成AIを壁打ち相手にしている経営者(観光庁の事例集から)
観光庁「宿泊施設のためのIT活用事例集」(令和8年3月)には、生成AIを壁打ちに使っている小さな宿の経営者が載っています。
魚と貝のうまい宿 玉川(愛知県田原市・1918年創業・従業員20人)|データを読ませて打ち手を考える
DMOの調査で、宿のある田原市は日帰りの観光が大半だとわかりました。代表は、DMOが持つ人流データを生成AIに読ませ、施策の壁打ちをしています(用途9)。あわせて、季節のイベントや観光スポットの情報を自社サイトに載せました。検索から自社サイトへの流入が生まれ、日帰りの予定だった旅行者が宿泊を考えるきっかけにもなった、としています。
代表は、生成AIは「正解をもらう道具」ではなく、壁打ちの相手だと話しています。使い道は、改装の図面への意見、メニュー開発での改善案のアイデア出し、観光データを読ませた地域の課題の解決策などです。ずれた答えが返ることもあるものの、「考えるきっかけ」や「別の切り口」をくれる存在として十分に価値がある、としています。
和心亭豊月(神奈川県箱根町)|仮説を立てるときの相手に
専務は、仮説を「何かにITを活用しよう」から立てないと話しています。「何をしたら楽になるか?」「何をしたらもっと売上が上がるか?」から立てるのが、小規模な宿に合っているそうです。小規模事業者の強みは、決める人が近いことだとも述べています。
さらに、お客様が「なぜ来るのか」「何がリピートにつながっているのか」を因果で考え、外れてもよいので仮説を考え続けることが大切だとしています。今は生成AIを壁打ち相手に使えるので、従業員にも使うことをすすめています。お客様がチェックインのあとに何をしているかを書き出すだけでも、ITの使いどころが見えることがある、とも話しています。この書き出しは、用途1のプロンプトにそのまま貼れます。
国の補助金の資料にも「壁打ち」
中小企業省力化投資補助金(一般型)の「事業計画書作成の参考ガイド」(8ページ)は、生成AIサービス等で公募要領の要点をつかむことをすすめています。そのうえで、自身の事業アイディアを壁打ちしながら、事業計画づくりに活かすことも「おすすめ」としています。同じガイドは、外部の支援を受ける場合でも、実際に事業をするのは事業者だと理解して計画書を作るよう求めています。くわしくは事業計画書×AIで解説しています。
2つの宿に共通するのは、データや仮説といった材料を経営者が持ち込み、AIの答えを考えるきっかけとして使い、決めるのは経営者自身であることです。宿以外の業種でも、用途6と用途9のプロンプトで同じ使い方ができます。業界ごとの使い方は、旅館・ホテル×AIなどの業種別の記事にまとめています。
AIとの壁打ちでよくある失敗と対策
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 「どうすればいいですか」と答えを求める | 一般論が返り、自社に合わない | 自分の案を出してから「弱点は」「ほかの案は」と聞く(用途3・4) |
| 会社のことを伝えずに聞く | 大企業向けの案など、規模に合わない答えになる | 前提の文を最初に貼る。テーマごとにプロジェクトやスキル(Gem)に保存する |
| 賛成してもらって安心する | 思い込みが強まる | 反論役を頼む。賛成が続いたら「反対の立場で」と言い直す |
| AIが出した数字や制度をそのまま使う | 古い数字や誤りが混ざる | 元の資料・公式のページで確かめる。前提の文で「確かめる資料の名前を添える」と頼む |
| 社員やお客様の情報をそのまま貼る | 個人情報の扱いの問題になる | 名前を伏せる。社内で入れてよい情報の決まりに沿う |
| 1回話して終わる | 考えが続かず、元に戻る | 決める日と見直す日を決め、用途10で見直しの質問を作っておく |
AIと人の壁打ち相手の使い分け
AIがあれば人の相談相手が要らなくなるわけではありません。AIで考えを整理してから人に会うと、人との時間を「確かめる」「決める」に使えます。
| 相手 | 向くこと | 気をつけること |
|---|---|---|
| 生成AI | いつでも何度でも。頭の整理、選択肢出し、反論役、立場を変えた読み | 実務の経験はない。数字と事実は確かめる。気持ちの相談には向かない |
| 社内の幹部・社員 | 現場の事実、実行できるかの見立て | 社長の案に反対しにくい。用途4の問いを会議で使う |
| 同業の経営者・業界の仲間 | 業界の実情、失敗した話 | 業界の常識にしばられることがある |
| 顧問税理士・金融機関・支援機関 | お金・税・制度の確認 | 頼める範囲を先に確かめる |
| 外部のコンサルタント・AI顧問 | 続けて付き合う壁打ち、仕組みづくりの伴走 | 費用がかかる。頼む範囲と回数を決める |
外部の相手に続けて頼む場合の役割と選び方は、AI顧問とは?で解説しています。
シス学の場合|壁打ちの結果を、AI・社員・社長で分けて回す
シス学(システム経営学)は、AIエージェントを活用し、会社を「儲かるシステム」につくり変える経営学です。壁打ちも、社長が一人で抱えるのではなく、作業・確認・判断に分けて回します。たとえば、用途7の値上げの検討は次のように分けます。
| 受け持つ人 | 仕事 | 中身 |
|---|---|---|
| AI | 作業 | 前提の文と材料から、選択肢、反論、お客様の受け止め方の予想、お知らせの文の下書きを作る |
| 社員 | 確認 | 原価と粗利の計算を検算し、お客様の声と競合の公開価格を集め、下書きの事実の誤りを直す |
| 社長 | 判断 | 値上げの幅と時期、どのお客様にどう伝えるかを決める |
前提の文に書いた「いちばん大事にしていること」「やらないと決めていること」は、社長の判断の基準を言葉にしたものです。言葉にして残すと、幹部も同じ基準で考えられるようになり、社長の判断を次へ引き継げる会社(承継価値の向上)に近づきます。
シス学のAI研修では、社長と幹部が、自社のテーマを使ってこの壁打ちのやり方を練習します。研修は助成金の対象となる場合があります(AI研修に使える助成金)。続けて相談相手が必要な場合は、シス学のAIコンサルティングでお手伝いします。
料金は、対象の業務と体制をお聞きしたうえで、無料相談でご案内します。まずは30分の無料相談からご相談ください。
まとめ|10のプロンプトに共通すること
- 最初に前提の文(会社のこと・判断の基準・AIへの指示)を貼り、テーマごとに保存しておく
- 答えではなく、質問・選択肢・反論・確かめ方を求める。成功の予想や点数はつけさせない
- 事実と推測を分けさせ、渡した材料にないことは足させない
- AIは同意しがちなので、反対の立場を割り当てる
- 数字と制度は元の資料で確かめ、個人情報は伏せる。決めるのは社長
最初の1歩は、いま使っているAIでプロジェクト(Geminiならスキル)を1つ作り、前提の文の〔 〕を埋めて指示の欄に貼ることです。そのうえで、いちばん気になっている悩みを、用途1のプロンプトに書き出してみてください。
よくある質問
壁打ちにAIを使うとは、どういうことですか?
考えをAIに話し、質問や反論、選択肢を出してもらいながら、自分の考えを整理することです。答えをもらうのではなく、決める前の整理と抜けの点検に使います。決めるのは社長です。
壁打ちには、どのAIがおすすめですか?
特定の製品はおすすめしません。前提の文を保存して毎回読み込ませる機能があると便利です。2026年10月23日に公式ヘルプで確かめた範囲では、ChatGPTとClaudeには「プロジェクト」、Geminiには「Gem」があります。Google は Gem から「スキル」への移行を進めていて、ビジネスとエンタープライズのプランでは2027年3月1日以降 Gem を使えなくなります。会社で使う場合は、プランごとの料金と入力したデータの扱いを確かめてから選びます。
AIは、社長の意見に合わせた答えばかり返しませんか?
意見に合わせた答えを返すことはあります。OpenAIは2025年4月29日、ChatGPTのGPT-4oの更新が同意しすぎる応答になっていたとして、その更新を取り消したと公表しました。賛成を求める聞き方をやめ、反対の立場を割り当てる、失敗した前提で理由を聞く、といった聞き方にします(用途4)。
経営の数字や社員の情報を入れても大丈夫ですか?
社内で入れてよい情報の決まりを先に作ります。個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含むプロンプトを入れるときは、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめるよう求めています。社員やお客様の名前は伏せ、数字は必要なものだけを表にして渡します。
AIがあれば、人の相談相手は要らなくなりますか?
要らなくはなりません。AIは実務の経験がなく、数字や事実を誤ることもあり、気持ちの相談にも向きません。AIで頭を整理してから、社内の幹部、顧問税理士、同業の経営者などと話すと、人との時間を確かめることと決めることに使えます。



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