経営にAIを使うとは?現場の業務との違い
経営にAIを使うとは、社長が自分の仕事で、AIを使うことです。数字を読む、計画を立てる、情報を集める、判断を記録する、といった場面です。AIに経営の判断を代わりに行わせることではありません。
| 見るところ | 現場の業務 | 経営 |
|---|---|---|
| 例 | 見積書の下書き、日報の要約、問い合わせメールへの返事の下書き | 試算表の読み解き、経営計画の下書き、判断の記録の整理 |
| 仕事の形 | 手順が決まっていて、くり返す | 毎回条件が違い、くり返しが少ない |
| AIの役割 | 作業の時間を減らす | 判断の材料と、記録を整える |
経営にAIを使うメリット
- 判断の材料をそろえる時間が減る。数字の一覧や資料の要点を、短くまとめてもらえる
- 判断の記録が残る。決めた理由を言葉にしておくと、あとから説明しやすくなる
- 抜けや見落としの指摘を受けられる。計画の下書きを読ませて、足りない項目を挙げてもらえる
中小企業庁の資料によると、2019年以降のAI活用に「取り組んだ」中小企業は、約3割(30.3%、n=5,645)でした。取り組んだ事業者に、部門別の活用状況を聞いた結果は、次のとおりです。「活用している」は、バックオフィス部門が73.4%、営業・販売・顧客対応部門が68.2%、製造・生産管理・物流部門が57.2%でした。この調査の部門別の項目に、経営は入っていません。
国の調査でわかる、経営の基本の現状
経営の基本を、小規模事業者がどのくらい行っているか。中小企業庁の資料にある、4つの項目を見ます。
| 項目 | 取り組んでいる | 取り組んでいない |
|---|---|---|
| 経営計画の策定(n=9,915) | 19.9% | 80.1% |
| 資金繰り計画の策定(n=9,915) | 24.6% | 75.4% |
| 原価管理(n=9,915) | 67.8% | 32.2% |
| マーケティング(n=7,138) | 60.6% | 39.4% |
経営計画と資金繰り計画は、取り組んでいる事業者が少ない項目です。2026年版の小規模企業白書は、経営計画を策定している事業者は、売上高と営業利益率が「増加」「上昇」と答えた割合が高いと述べています。また、経営計画を社内で共有している事業者のほうが、効果が得られたと答えた割合が高い結果でした。
「成長に向けたAI活用」に取り組んだ企業(n=2,618)と、取り組んでいない企業(n=9,089)を比べた調査もあります。2024年と2019年の付加価値額の増加率(中央値)は、取り組んだ企業が23.0%、取り組んでいない企業が17.9%でした。ここでの「成長に向けたAI活用」は、売上高を増やすために、これまで自社だけではできなかった、または十分でなかった業務に、AIを使うことです。AI以外の要因もあるため、AIだけの効果とは言えません。
AIを活用していない理由では、「活用を推進する人材が不足している」が40.0%、「社内ルール・ガイドラインが整備されていない」が26.2%でした。使う場面と、進める人と、ルールを先に決めると、始めやすくなります。
経営でAIが役立つ6つの場面
| 場面 | 頼み方の例 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 数字を読む | 月ごとの売上と経費の一覧を渡して、前の月との差と、増減の大きい項目を文章にまとめてもらう | 計算は表計算ソフトで確かめる。入力してよい数字かを、先に決める |
| 計画の下書き | 現状、目標、やることを箇条書きで渡して、経営計画の文章の下書きを作ってもらう | 数字と目標は、自社で決める。できた計画は、社内で共有する |
| 情報を集める | 業界の動きや、公的な資料の要点を、短くまとめてもらう | 出典を自分で開いて確かめる。誤りが含まれることがある |
| 判断を記録する | 判断した理由を話して録音し、文字にして、「何を見て、なぜ決めたか」に整理してもらう | 同席者に、録音することを伝える。個人情報は入れない |
| 会議のあとの整理 | 録音の文字から、決まったこと、担当、期限の一覧を作ってもらう | 出席者が内容を確かめてから、共有する |
| 文書の下書き | 社員への依頼文や、取引先へのお願いの文面の下書きを作ってもらう | 送る前に、自分の言葉で直す。相手の個人情報は入れない |
数字を読む場面の頼み方の例
次のように、材料だけを求めると、判断を預けずに済みます。「次の表は、当社の月ごとの売上と経費です。前の月との差が大きい項目を3つ挙げてください。それぞれ、考えられる原因と、確かめるべき資料の名前を書いてください。結論は書かず、材料だけをまとめてください。」
どの場面でも、AIの出力は、下書きと整理と材料として使います。決めたことの責任は、会社にあります。
経営判断にAIを使うときの線引き|国の指針から
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIを事業で使う会社(AI利用者)が取り組む事項を挙げています。社長の場面に当てはめると、次のとおりです。
| ガイドラインの記述(要点) | 社長の場面では |
|---|---|
| 人間の判断を介在させることで、予期せぬ事故を防ぐことにもつながる | AIの案を、そのまま決定にしない。決める前に、自分の目で確かめる |
| AIの出力の精度とリスクの程度を理解し、リスク要因を確かめたうえで使う | 数字や事実は、元の資料で確かめてから使う |
| 責任をもって、AIの出力結果を事業に使うかどうかを判断する | AIが出した案でも、判断の責任は会社にある |
| 出力結果を事業判断に使ったときは、関連するステークホルダーに、合理的な範囲で情報を伝える | AIを使って決めたことは、関係者に聞かれたときに説明できるようにしておく |
| 個人情報や機密情報を、不適切に入力しないよう注意する | 入力してよい情報を、先に決める |
AIに任せない経営の場面
- 会社の方向と、年間の目標を決めること
- 借入や大きな契約など、会社の信用とお金に関わる最終の判断
- 人の採用や評価の最終の判断。ガイドラインは、AIの出力を特定の個人や集団の評価の参考にする場合に、AIを利用している旨の通知と、人間による合理的な判断を挙げています
- 取引先との重要な交渉と、お詫びの場面
入力してよい情報の決め方は、生成AIの社内ルールの作り方で解説しています。
社長の判断をAIで残す方法|記録から基準へ
社長の判断を会社の仕組みに移すには、判断を記録して、基準にします。AIは、記録の整理と、基準の案づくりに使えます。
- 判断を記録する:1〜2週間、社長が決めたことを、「依頼の内容」「見た資料」「決めたこと」「理由」の4つで記録する。話して録音し、AIに整理してもらってもよい
- 同じ種類を並べる:値引き、納期の相談、新しい取引など、種類ごとに並べる
- 基準の案を作る:AIに記録を渡し、「どんな条件のとき、どう決めているか」の案を出してもらう。案は、社長が読んで直す
- 基準を使う:基準に当てはまる案件は、基準にもとづいて進める。当てはまらない案件は、これまでどおり社長が決める。決めたことは、記録に足す
| 日付 | 依頼の内容 | 決めたこと | 理由 |
|---|---|---|---|
| 10月3日 | A社から、5%の値引きの依頼 | 5%で受けた | 年に12回以上の取引がある。利益率の範囲内 |
| 10月9日 | B社(初めての取引)から、10%の値引きの依頼 | 3%にした | 初めての取引。次回以降に条件を見直す |
| 10月15日 | C社から、7%の値引きの依頼 | 断った | 利益率が、下限を下回る |
3件ほど並べると、「年に12回以上取引がある会社は、5%まで担当者が決めてよい」のような基準の案が見えてきます。これが、判断を会社の仕組みに移す最初の一歩です。基準の書き方は、マニュアル作成にAIを使う方法で解説しています。
AIに基準の案を頼むときの文面は、たとえば次のようにします。「次の表は、値引きの依頼に対する、過去の判断の記録です。どんな条件のとき、どう決めているかを、条件と数字で3つにまとめてください。記録にない条件は、推測せずに『記録なし』と書いてください。」記録にない条件を推測させないことで、AIが作り話を足すことを減らせます。
社長の仕事を書き出して仕分けるところから始める場合は、社長の仕事とは?をご覧ください。
最初の30日の進め方
| 週 | やること | できあがるもの |
|---|---|---|
| 1週目 | 判断の記録を始める。入力してよい数字だけで、AIに、月ごとの売上の一覧のまとめを1回頼んでみる | 記録の表、試した結果のメモ |
| 2週目 | 記録を種類ごとに並べる。AIに入力してよい情報を決める | 種類ごとの一覧、入力してよい情報の一覧 |
| 3週目 | 1つの種類について、基準の案を作り、直す | 基準の案(1つ) |
| 4週目 | 基準を、1つの案件で使ってみる。結果を見て直す | 直した基準、次に記録する種類 |
30日で、基準が1つできれば十分です。1つできると、次の種類にも、同じ手順で進められます。
経営にAIを使うときのよくある失敗と対策
失敗1:AIの答えを、そのまま判断に使う
文章が整っていると、正しく見えてしまいます。対策:数字と事実は元の資料で確かめ、決めた理由を、自分の言葉で書きます。
失敗2:機密や個人情報を入れてしまう
資料をそのまま貼り付けてしまうことがあります。対策:先に、入力してよい情報と、入れない情報を分けます。
失敗3:数字の計算を、AIに任せきりにする
文章は得意でも、計算を間違えることがあります。対策:計算は表計算ソフトで行い、AIには、結果の読み解きと文章を頼みます。
失敗4:道具から入って、使う場面が決まらない
国の調査でも、AIを活用していない理由の1位は、活用する業務がイメージできていないことでした。対策:数字、計画、記録のどの場面で使うかを先に決め、道具は最後に選びます。
失敗5:計画をつくって、社内に共有しない
社内で共有している事業者のほうが、効果が得られたと答えた割合が高い結果でした。対策:計画ができたら、社員に説明し、いつでも見られる場所に置きます。
シス学の進め方|社長の判断を、会社の仕組みに移します
シス学(システムAI経営学)は、社長の頭の中にある判断と勝ちパターンを、AIでマニュアルにし、AIエージェントで仕組みにして、誰がやっても回る会社をつくる経営の方法です。株式会社むさしAI研修のAI導入支援ブランドとして提供しています。旗の言葉は「世界は、システムでできている。」です。
シス学が会社に進めるやり方は、AIで会社をシステム化し、再現性を高めることです。具体的には、次の3つです。
- 社長や一部の社員の頭の中にある、手順と判断の基準を書き出し、会社の仕組みに移します。
- うまくいったやり方(勝ちパターン)を、誰がやっても同じ品質で、何度でも再現できるようにします。ミスも減ります。
- 新たな勝ちパターンのつくり方も仕組みにして、
進化し続けられるようにします。
このやり方で、次の「シス学で叶える3つのシ」を目指します。
- 1つ目のシ:収益改善:高収益体質へ。削れた作業時間と、新たな勝ちパターンで伸びた分の両方を、数字で確かめます。
- 2つ目のシ:時間創出:社長がいなくても回る会社へ。社長は経営の判断と次の一手に、社員はお客様への対応と自分の成長に、時間を使えるようにします。
- 3つ目のシ:承継価値の向上:いつでも、高い価値で次へ引き継げる会社へ。
この記事で扱った、経営へのAI活用は、1つ目のシ「収益改善」と、3つ目のシ「承継価値の向上」につながります。数字と計画を整え、判断を基準として残すことで、社長が替わっても、同じ考え方で会社が回ります。
シス学 AI戦略では、経営課題の分析、AI導入計画、判断の基準づくりを、社長のお話を伺いながら一緒に進めます。社員向けのAI研修や、手順を自動化するAI開発も、同じチームで担当します。依頼先の選び方は、AI導入支援とは?で解説しています。
まとめ
- 経営にAIを使うとは、社長が数字、計画、記録の場面で、AIを材料づくりに使うこと。判断を代わりに行わせることではない
- 経営計画と資金繰り計画は、取り組んでいる小規模事業者の割合が低い。AIは、その下書きと整理に使える
- AI事業者ガイドラインは、人間の判断の介在、出力の確認、個人情報・機密情報の扱いを挙げている
- 社長の判断は、記録して基準にすると、会社の仕組みに移せる。最初の30日で、基準を1つつくる
まずは、社長の1週間の仕事を書き出してみてください。書き出しには、無料の社長の仕事 棚卸しパック(Excel・PDF)が使えます。お名前・会社名・メールアドレスの入力で受け取れます。AI導入の全体の流れは、中小企業のAI導入の進め方にまとめています。
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よくある質問
経営にAIを使うとは、どういうことですか?
社長が、数字を読む、計画を立てる、情報を集める、判断を記録するといった自分の仕事で、AIを使うことです。AIには、下書き、整理、材料づくりを頼みます。経営の判断を代わりに行わせることではありません。
経営の判断を、AIに任せてもよいですか?
任せないでください。AI事業者ガイドライン(第1.2版)は、AIを使う事業者に、出力の精度とリスクの程度を理解したうえで利用することや、責任をもって事業利用の判断を行うことを挙げています。AIの案は材料にし、決めて責任を持つのは会社です。
経営でAIを使うとき、何から始めればよいですか?
社長が決めたことを、「依頼の内容、見た資料、決めたこと、理由」の4つで記録するところから始めます。1〜2週間分がたまったら、AIに整理してもらい、基準の案を作ります。
経営の数字や社内の資料を、AIに入力しても大丈夫ですか?
先に、入力してよい情報を決めてください。AI事業者ガイドラインは、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを挙げています。サービスやプランで、入力した内容の扱いが違うため、使うサービスの規約を確かめます。
社内にAIに詳しい人がいなくても、始められますか?
始められます。国の調査では、AIを活用していない理由の2番目が、「活用を推進する人材が不足している」(40.0%)でした。まず窓口になる人を1人決め、1つの場面から試します。外部の支援を使う場合は、[AI導入支援とは?](/column/ai-donyu-shien)をご覧ください。




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