AI導入公開 更新

Q.中小企業のAI導入が進まない課題と、その越え方は?

打ち合わせの机で、経営者と相談相手が調査の数字の資料を一緒に確かめている様子

A. 公的な調査で多い理由は、使う業務が浮かばない(63.4%)、コストが高い(46.9%)、進める人がいない、ルールがない、社員が使わない、の5つです。どれもツールの性能より段取りの問題で、仕事を1つに絞る、担当者を1人決める、費用と効果を数字で比べる、の3つで越える手があります。

この記事では、中小企業庁、中小機構、総務省、IPAの調査で確かめた数字を使い、5つの理由を順に答えます。理由ごとに「中小企業が明日できる手」を、表とチェックの形で付けました。自社だけで段取りを組むのが難しい場合の頼み方は、AIコンサルティングのページで紹介しています。

1. AIを使う業務が思い浮かばない

数字で見ると

中小企業庁の資料では、2019年以降の省力化の投資でAIを活用していない中小企業(3,888社)に理由を聞いています。1位は「活用する業務がイメージできていない」で、63.4%でした(複数回答)。IPAの「DX動向2026」でも、DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業の最多の理由は「自社がDXに取組むメリットがわからない」(54.0%)です。

原因の一つは、手本にできる情報が手に入らないことです。中小機構の調査では、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらないと答えた企業が83.3%でした。「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」に当てはまらないも79.8%です。AIの導入予定がない企業では、「導入の必要性や効果が不透明」(28.3%)が全体より高い割合で挙がっています。「現状で満足しており、導入の必要性を感じない/認められない」(27.7%)も同じです。

手作業が多い会社ほど、AIの導入率は低くなっています。中小機構の調査(ITを導入済みの企業)で、業務の80%以上が手作業の企業(183社)のAI導入率は26.7%でした。手作業が20%未満の企業(44社)は56.8%です。紙と手入力が多い会社ほど、「AIに何を渡せばいいか」が見えにくいということです。

同じくらいの規模の会社が、どの仕事にAIを使い、どれだけ時間が減ったかは、中小企業の生成AI活用事例19選に公的資料の数字つきでまとめています。

中小企業が明日できる手|15分の書き出し表

社長と担当者で、先週の仕事を次の表に書き出します。1行1業務、10行で十分です。右の3列がそろって「はい」になった業務が、最初にAIに渡す候補です。

AIに渡す候補を見つける書き出し表(記入例)
業務週の回数1回の時間手順が決まっているか人が確かめられるか間違えても直せるか
見積書の下書き15回30分はい(単価表がある)はいはい(出す前に確認)
受注メールを販売管理へ入力40回5分はいはいはい
会議の議事録3回40分はいはいはい
値引きの判断5回10分いいえ(毎回違う)——

候補の選び方には、中小機構の調査も参考になります。業務分野別のAI導入率は、総務・管理(68.3%)、営業・販売・サービス(60.3%)、経営・企画(58.5%)が高く、製造・生産は34.9%でした。AIで効率化が難しいと感じる業務の1位は「人の判断が必要な業務(営業提案、顧客折衝など)」で67.1%です(導入していない企業も含む回答)。値引きや取引の可否のような判断の仕事は最初の候補から外し、事務の下書き・転記・要約から始めます。

書き出しに詰まったら、生成AIに手伝わせます。顧客名などを入れずに、次の文をそのまま使えます。

「私は従業員20人の〇〇業(例:設備工事業)の社長です。社内でよくある仕事のうち、生成AIに下書き・転記・要約を任せられるものを、総務・経理、営業、現場の部門別に5つずつ挙げてください。それぞれ、人が最後に確かめるべき点を1行で添えてください。」

業務の洗い出しをもっと細かく進める手順は、業務の棚卸しとは?で解説しています。

2. 導入のコストが高い・効果が見えない

数字で見ると

中小機構の調査で、AI導入の阻害要因の1位は「導入にあたっての高コスト」の46.9%でした(1,636社)。導入を予定・検討している企業に限ると61.0%に上がります。運用の課題でも1位は「ランニングコストが高い」の44.0%でした(導入していない企業も含む1,587社)。導入済みの企業でも、全社導入で42.1%、一部の業務で導入で44.1%です。

一方で、費用と比べる「効果の目標」を決めていない企業が多いことも分かっています。同じ調査で、コスト削減を目的にAIを入れた企業のうち、具体的な目標を「特に決めていない」が59.2%でした(49社)。目標がなければ、費用が高いかどうかも判断できません。

効果そのものは出ています。中小機構の調査では、AIを導入した企業の83.2%が「業務効率化/作業時間の短縮」の効果を挙げました。中小企業庁の資料では、売上を増やすための「成長に向けたAI活用」に取り組んだ企業は、付加価値額の増加率(中央値)が23.0%でした(2019年→2024年)。取り組んでいない企業の17.9%を上回っています。

中小企業が明日できる手|費用対効果の計算表

1で選んだ業務1つについて、次の表を埋めます。見積もりや料金表の金額を「年」にそろえて、効果の金額と並べるのがポイントです。

AI導入の費用対効果の計算表(数字は計算のしかたを示す仮の例)
項目計算のしかた仮の例(見積書の下書き)
削れる時間今の時間 -(AIの下書き+人の確認)の時間月30時間 → 月12時間で、月18時間減
時間の金額削れる時間 × 1時間あたりの人件費 × 12か月18時間 × 2,500円 × 12 = 年54万円
ツールの費用1人あたりの月額 × 使う人数 × 12か月(税込にそろえる)公式サイトの料金表で計算
導入の費用設定・開発、研修、外部の支援見積もりの合計
社内の時間試す期間に増える確認の手間担当者の週2時間 × 4週
判断時間の金額 > ツール+導入+社内の時間 か1年で回収できるかを見る

比べる目安になる数字もあります。中小機構の調査で、ITを導入済みでクラウドサービスを使う企業(234社)の直近の決算期の契約額(税込)は、中央値68万9千円でした。「100万円以下」が61.5%です。AIだけの金額ではありませんが、中小企業の年間のIT予算の感覚をつかむ材料になります。

費用を下げる公的な支援

AI導入の費用に関係する公的な支援(2026年10月23日に公式ページで確認)
制度中身確かめること
デジタル化・AI導入補助金(通常枠)補助率1/2以内(条件を満たすと2/3以内)。1プロセス以上は5万円以上150万円未満、4プロセス以上は150万円以上450万円以下。ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入研修や活用コンサルティングも対象事務局に登録されたITツールが対象で、登録された「IT導入支援事業者」と組んで申請する。業務プロセスを持たない汎用的な機能だけのソフトは対象外。第7次公募回から、補助率の引き上げの要件が変わり、1人当たり給与支給総額の向上という申請要件が加わる(2026年10月9日のお知らせ)
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)中小企業は研修の経費の75%と、1人1時間1,000円の賃金助成(上限あり)。対象は雇用保険の被保険者審査で決まり、受給は保証されない。計画届は研修開始の1か月前まで(6か月前から)。受講料はいったん会社が全額を払う。eラーニング・通信制は経費助成だけで、賃金助成はない。2026年8月3日の改正で、eラーニングは同じ社員に年度1回まで(経過措置あり)。令和8年度末までの時限措置

3. 進める人がいない・社内にノウハウがない

数字で見ると

中小企業庁の資料で、AIを活用していない理由の2位は「活用を推進する人材が不足している」の40.0%でした。中小機構の調査でも、阻害要因の2位と3位は「社内のAIノウハウ不足」(42.0%)と「社内のAI人材不足」(38.8%)です。導入を検討中の企業では、それぞれ59.3%と53.7%に上がります。

担当を決めていない会社がほとんどです。中小機構の調査では、AI・ITの推進に「特定の担当者はおらず、経営者・現場従業員が個別に推進している」が85.9%で、専任の担当者がいる企業は3.0%でした。IPAの「DX動向2026」(大企業も含む全規模)でも、AI導入・運用上の課題の1位は「専門人材が不足している」(50.1%)でした。2位は「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」(45.8%)です。

中小企業が明日できる手|推進役を1人決め、4週間の宿題を渡す

専任の人を採る必要はありません。次の条件で社内から1人を指名し、最初の4週間の宿題を渡します。

  • □ パソコンに詳しい人より、1で選んだ業務の流れを知っている人
  • □ AIに使う時間として、週2時間を社長が先に空けている
  • □ 社長に直接、週1回5分で報告できる
  • □ 試した結果を、うまくいかなかった点も含めて記録できる
推進役の最初の4週間(例)
週やること社長が見るもの
1週目会社として使うツールを1つ決め、1の業務で自分が試す試した画面と、かかった時間
2週目うまくいった指示文(プロンプト)を3つ、共有フォルダに保存する指示文と、直した箇所
3週目同じ業務の担当者2人に使ってもらい、困った点を集める困った点の一覧
4週目1回あたりの時間を、始める前と同じ方法で測る前後の時間の比較。続ける・やめるを社長が決める

社内で教えられる人がいない場合は、外部の研修で補います。中小機構の調査では、AI・ITの導入に必要な公的支援として「従業員向けの教育・研修」を67.7%が「必要である」と答えています。研修を選ぶときの見方は、生成AI研修の選び方にまとめています。

4. 社内ルールがない・情報漏えいが心配

数字で見ると

中小企業庁の資料では、AIを活用していない理由の3位が「社内ルール・ガイドラインが整備されていない」(26.2%)でした。4位は「セキュリティ・情報漏えいへの不安がある」(14.5%)です。中小機構の調査では、AI・ITの導入でセキュリティや情報漏えいに「強い懸念がある」「多少懸念がある」と答えた企業が合わせて75.2%です。

大企業との差がはっきり出ているのがルールです。総務省の情報通信白書のデータは、勤め先の会社について答えた人の割合です。生成AIのリスク対策として「全社的な指針やガイドラインを整備している」は、大企業44.9%に対して中小企業29.1%でした。「特に実施している施策はない・把握していない」は、中小企業で24.1%です。生成AIの活用方針を「明確に定めていない」中小企業も31.5%ありました。

中小企業が明日できる手|1枚ルールの文例と、ツールの設定チェック

長い規程は要りません。まずは次の6行を社内に配り、迷ったら推進役に聞く形で始めます。

  1. 仕事でAIを使うときは、会社が決めたツールと、会社で契約したアカウントだけを使う
  2. お客様や社員の個人情報、パスワード、未公開の決算や取引の条件は入れない
  3. 取引先の名前を含む見積書や議事録は、会社が認めた設定のツールでだけ扱う
  4. AIが作った文書は、数字・固有名詞・日付を人が確かめてから社外に出す
  5. 使ってよいか迷ったら、使う前に推進役(〇〇さん)に聞く
  6. このルールは3か月ごとに見直す(次は〇月〇日)
会社で使う生成AIツールの設定チェック
確かめること見る場所
入力した内容が、AIの学習に使われない設定かツールの設定画面と、法人向けプランの説明
会社が管理するアカウントか(個人の無料アカウントでないか)契約の名義と、管理画面
退職者や異動者の利用を、管理者が止められるか管理画面のユーザー管理
データの保存先や保存期間が書かれているか利用規約・データの取り扱いのページ

ルールに入れる項目を10個に広げた版は、生成AIの社内ルールの作り方で解説しています。

5. 入れたのに社員が使わない・続かない

数字で見ると

導入した後にも壁があります。中小機構の調査で、AIの運用課題に「従業員による活用が進まない」を挙げた企業は、全社的に導入している企業(57社)で40.4%でした。一部の業務で導入している企業(272社)でも36.0%です。導入していない企業も含む全体(28.9%)より高い数字です。報告書は、AIは指示(プロンプト)しだいで精度が変わり、使う人のスキルに左右されやすいと分析しています。

会社としての取り組みも追いついていません。総務省の情報通信白書では、勤め先に生成AIを使う方針があると答えた人は中小企業で58.1%(大企業74.0%)でした。一方で、業務の見直しに組織的な取り組みはないという答えは中小企業で45.6%(大企業18.1%)です。

効果の中身も、まだ時間短縮が中心です。IPAの「DX動向2026」(全規模)では、AI導入の効果が「期待以上」「期待どおり」と答えた企業は合わせて31.8%でした。「一定の効果はあった」は50.6%です。効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%で、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまります。

中小企業が明日できる手|「使う場面」を手順に書き込む

「自由に使ってください」では、忙しい時期に元のやり方へ戻ります。使う場面を業務の手順書の1行として書き、次の3つを決めます。

社員が使い続けるための3つの決めごと
決めること例(受注メールの入力)
どの手順で使うか「受注メールを受けたら、まず共有の指示文でAIに注文内容を一覧にさせる」と手順書に書く
誰が何を確かめるか品番・数量・納期は入力担当が確かめ、迷う注文は営業に回す
何を測るか1件あたりの入力時間と、入力ミスの件数を月末に数える
  • □ うまくいった指示文を、共有フォルダに業務名で保存している
  • □ 月に1回15分、使った人が「うまくいった例・失敗した例」を1つずつ出す場がある
  • □ 測った数字を、社長が自分で見ている
  • □ 次に広げる業務が、1の書き出し表から決まっている

すぐ使える部署別の指示文は、業務効率化×AI プロンプト&事例15選に集めています。

結論|5つの課題は「1業務・1担当・1つの数字」から越える

中小企業のAI導入の課題と、明日できる手(まとめ)
課題主な数字明日できる手
1. 使う業務が思い浮かばない63.4%(中小企業庁)先週の仕事を10行書き出し、3つの「はい」がそろう業務を選ぶ
2. コストが高い・効果が見えない46.9%(中小機構)費用と効果を「年」にそろえた計算表を作り、公的支援の条件を確かめる
3. 進める人・ノウハウがない40.0%(中小企業庁)業務を知る人を推進役に指名し、週2時間と4週間の宿題を渡す
4. ルールがない・漏えいが心配26.2%・14.5%(中小企業庁)6行の1枚ルールを配り、ツールの設定を4項目確かめる
5. 社員が使わない・続かない全社導入40.4%・一部導入36.0%(中小機構)使う場面を手順書に書き、確かめる人と測る数字を決める

最初の1歩は、明日の朝15分、社長と担当者で先週の仕事を10行書き出すことです。そこから1つの業務を選べば、2〜5の課題も「その業務について」考えればよくなり、費用の計算もルールづくりも小さく始められます。

シス学の場合|課題の整理も「作業・確認・判断」に分けて進めます

シス学(システム経営学)は、AIエージェントを活用し、会社を「儲かるシステム」につくり変える経営学です。この記事の1と2(使う業務を選び、費用と効果を比べる)を例にすると、仕事を次のように分けます。

「どの業務からAIに任せるか」を決める仕事の分け方(例)
任せ先受け持つ仕事中身
AI作業日報や予定表から業務と時間の一覧を下書きし、削れる時間×人件費の試算表を作る
社員確認抜けている業務と、1回の時間が実態と合っているかを直す
社長判断どの業務から任せるか、年にいくらまでかけるかを決める

削れた作業時間を、人件費と粗利の数字で確かめるところまでを一緒に行うのが、シス学のAIコンサルティングです。料金は、対象の業務と体制をお聞きしたうえで、無料相談でご案内します。

関連資料

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よくある質問

中小企業のAI導入が進まない一番の理由は何ですか?

中小企業庁の資料では、省力化の投資でAIを活用していない中小企業の63.4%が「活用する業務がイメージできていない」と答え、最も多い理由でした(複数回答)。中小機構の調査では、阻害要因の1位は「導入にあたっての高コスト」(46.9%)です。

中小企業の生成AIの導入率はどのくらいですか?

調査によって聞き方が違います。中小機構の調査ではAIを導入している中小企業は20.4%で、そのうち82.6%が生成AIを使っています。総務省の情報通信白書では、勤め先に生成AIを使う方針があると答えた人は、中小企業で58.1%(大企業は74.0%)でした。IPAの調査では、従業員100人以下の企業のAI導入は16.6%です。

AI導入のコストは、どう考えればよいですか?

ツールの利用料(1人あたりの月額×人数×12か月)、設定・開発、研修、社内の時間を年の金額にそろえ、削れる時間×人件費の年額と比べます。中小機構の調査では、コスト削減を目的にAIを入れた企業の59.2%が具体的な目標を決めていませんでした。先に目標を決めることが、費用の判断の出発点です。

AI導入に補助金や助成金は使えますか?

ソフトウェアやクラウドの導入にはデジタル化・AI導入補助金(通常枠は補助率1/2以内など)、社員の研修には人材開発支援助成金が関係します。どちらも条件と申請の順番の決まりがあり、審査で決まります。公式ページの公募要領や案内で確かめてください。

中小企業でDXが進まない理由も同じですか?

重なる部分があります。IPAの「DX動向2026」では、DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業の理由は、「自社がDXに取組むメリットがわからない」(54.0%)が最多でした。AIと同じく、自社のどの業務がどう変わるかを具体的にすることが先です。

出典・参考

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