1. AIを使う業務が思い浮かばない
数字で見ると
中小企業庁の資料では、2019年以降の省力化の投資でAIを活用していない中小企業(3,888社)に理由を聞いています。1位は「活用する業務がイメージできていない」で、63.4%でした(複数回答)。IPAの「DX動向2026」でも、DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業の最多の理由は「自社がDXに取組むメリットがわからない」(54.0%)です。
原因の一つは、手本にできる情報が手に入らないことです。中小機構の調査では、「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」に当てはまらないと答えた企業が83.3%でした。「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」に当てはまらないも79.8%です。AIの導入予定がない企業では、「導入の必要性や効果が不透明」(28.3%)が全体より高い割合で挙がっています。「現状で満足しており、導入の必要性を感じない/認められない」(27.7%)も同じです。
手作業が多い会社ほど、AIの導入率は低くなっています。中小機構の調査(ITを導入済みの企業)で、業務の80%以上が手作業の企業(183社)のAI導入率は26.7%でした。手作業が20%未満の企業(44社)は56.8%です。紙と手入力が多い会社ほど、「AIに何を渡せばいいか」が見えにくいということです。
同じくらいの規模の会社が、どの仕事にAIを使い、どれだけ時間が減ったかは、中小企業の生成AI活用事例19選に公的資料の数字つきでまとめています。
中小企業が明日できる手|15分の書き出し表
社長と担当者で、先週の仕事を次の表に書き出します。1行1業務、10行で十分です。右の3列がそろって「はい」になった業務が、最初にAIに渡す候補です。
| 業務 | 週の回数 | 1回の時間 | 手順が決まっているか | 人が確かめられるか | 間違えても直せるか |
|---|---|---|---|---|---|
| 見積書の下書き | 15回 | 30分 | はい(単価表がある) | はい | はい(出す前に確認) |
| 受注メールを販売管理へ入力 | 40回 | 5分 | はい | はい | はい |
| 会議の議事録 | 3回 | 40分 | はい | はい | はい |
| 値引きの判断 | 5回 | 10分 | いいえ(毎回違う) | — | — |
候補の選び方には、中小機構の調査も参考になります。業務分野別のAI導入率は、総務・管理(68.3%)、営業・販売・サービス(60.3%)、経営・企画(58.5%)が高く、製造・生産は34.9%でした。AIで効率化が難しいと感じる業務の1位は「人の判断が必要な業務(営業提案、顧客折衝など)」で67.1%です(導入していない企業も含む回答)。値引きや取引の可否のような判断の仕事は最初の候補から外し、事務の下書き・転記・要約から始めます。
書き出しに詰まったら、生成AIに手伝わせます。顧客名などを入れずに、次の文をそのまま使えます。
「私は従業員20人の〇〇業(例:設備工事業)の社長です。社内でよくある仕事のうち、生成AIに下書き・転記・要約を任せられるものを、総務・経理、営業、現場の部門別に5つずつ挙げてください。それぞれ、人が最後に確かめるべき点を1行で添えてください。」
業務の洗い出しをもっと細かく進める手順は、業務の棚卸しとは?で解説しています。
2. 導入のコストが高い・効果が見えない
数字で見ると
中小機構の調査で、AI導入の阻害要因の1位は「導入にあたっての高コスト」の46.9%でした(1,636社)。導入を予定・検討している企業に限ると61.0%に上がります。運用の課題でも1位は「ランニングコストが高い」の44.0%でした(導入していない企業も含む1,587社)。導入済みの企業でも、全社導入で42.1%、一部の業務で導入で44.1%です。
一方で、費用と比べる「効果の目標」を決めていない企業が多いことも分かっています。同じ調査で、コスト削減を目的にAIを入れた企業のうち、具体的な目標を「特に決めていない」が59.2%でした(49社)。目標がなければ、費用が高いかどうかも判断できません。
効果そのものは出ています。中小機構の調査では、AIを導入した企業の83.2%が「業務効率化/作業時間の短縮」の効果を挙げました。中小企業庁の資料では、売上を増やすための「成長に向けたAI活用」に取り組んだ企業は、付加価値額の増加率(中央値)が23.0%でした(2019年→2024年)。取り組んでいない企業の17.9%を上回っています。
中小企業が明日できる手|費用対効果の計算表
1で選んだ業務1つについて、次の表を埋めます。見積もりや料金表の金額を「年」にそろえて、効果の金額と並べるのがポイントです。
| 項目 | 計算のしかた | 仮の例(見積書の下書き) |
|---|---|---|
| 削れる時間 | 今の時間 -(AIの下書き+人の確認)の時間 | 月30時間 → 月12時間で、月18時間減 |
| 時間の金額 | 削れる時間 × 1時間あたりの人件費 × 12か月 | 18時間 × 2,500円 × 12 = 年54万円 |
| ツールの費用 | 1人あたりの月額 × 使う人数 × 12か月(税込にそろえる) | 公式サイトの料金表で計算 |
| 導入の費用 | 設定・開発、研修、外部の支援 | 見積もりの合計 |
| 社内の時間 | 試す期間に増える確認の手間 | 担当者の週2時間 × 4週 |
| 判断 | 時間の金額 > ツール+導入+社内の時間 か | 1年で回収できるかを見る |
比べる目安になる数字もあります。中小機構の調査で、ITを導入済みでクラウドサービスを使う企業(234社)の直近の決算期の契約額(税込)は、中央値68万9千円でした。「100万円以下」が61.5%です。AIだけの金額ではありませんが、中小企業の年間のIT予算の感覚をつかむ材料になります。
費用を下げる公的な支援
| 制度 | 中身 | 確かめること |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 補助率1/2以内(条件を満たすと2/3以内)。1プロセス以上は5万円以上150万円未満、4プロセス以上は150万円以上450万円以下。ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入研修や活用コンサルティングも対象 | 事務局に登録されたITツールが対象で、登録された「IT導入支援事業者」と組んで申請する。業務プロセスを持たない汎用的な機能だけのソフトは対象外。第7次公募回から、補助率の引き上げの要件が変わり、1人当たり給与支給総額の向上という申請要件が加わる(2026年10月9日のお知らせ) |
| 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) | 中小企業は研修の経費の75%と、1人1時間1,000円の賃金助成(上限あり)。対象は雇用保険の被保険者 | 審査で決まり、受給は保証されない。計画届は研修開始の1か月前まで(6か月前から)。受講料はいったん会社が全額を払う。eラーニング・通信制は経費助成だけで、賃金助成はない。2026年8月3日の改正で、eラーニングは同じ社員に年度1回まで(経過措置あり)。令和8年度末までの時限措置 |
3. 進める人がいない・社内にノウハウがない
数字で見ると
中小企業庁の資料で、AIを活用していない理由の2位は「活用を推進する人材が不足している」の40.0%でした。中小機構の調査でも、阻害要因の2位と3位は「社内のAIノウハウ不足」(42.0%)と「社内のAI人材不足」(38.8%)です。導入を検討中の企業では、それぞれ59.3%と53.7%に上がります。
担当を決めていない会社がほとんどです。中小機構の調査では、AI・ITの推進に「特定の担当者はおらず、経営者・現場従業員が個別に推進している」が85.9%で、専任の担当者がいる企業は3.0%でした。IPAの「DX動向2026」(大企業も含む全規模)でも、AI導入・運用上の課題の1位は「専門人材が不足している」(50.1%)でした。2位は「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」(45.8%)です。
中小企業が明日できる手|推進役を1人決め、4週間の宿題を渡す
専任の人を採る必要はありません。次の条件で社内から1人を指名し、最初の4週間の宿題を渡します。
- □ パソコンに詳しい人より、1で選んだ業務の流れを知っている人
- □ AIに使う時間として、週2時間を社長が先に空けている
- □ 社長に直接、週1回5分で報告できる
- □ 試した結果を、うまくいかなかった点も含めて記録できる
| 週 | やること | 社長が見るもの |
|---|---|---|
| 1週目 | 会社として使うツールを1つ決め、1の業務で自分が試す | 試した画面と、かかった時間 |
| 2週目 | うまくいった指示文(プロンプト)を3つ、共有フォルダに保存する | 指示文と、直した箇所 |
| 3週目 | 同じ業務の担当者2人に使ってもらい、困った点を集める | 困った点の一覧 |
| 4週目 | 1回あたりの時間を、始める前と同じ方法で測る | 前後の時間の比較。続ける・やめるを社長が決める |
社内で教えられる人がいない場合は、外部の研修で補います。中小機構の調査では、AI・ITの導入に必要な公的支援として「従業員向けの教育・研修」を67.7%が「必要である」と答えています。研修を選ぶときの見方は、生成AI研修の選び方にまとめています。
4. 社内ルールがない・情報漏えいが心配
数字で見ると
中小企業庁の資料では、AIを活用していない理由の3位が「社内ルール・ガイドラインが整備されていない」(26.2%)でした。4位は「セキュリティ・情報漏えいへの不安がある」(14.5%)です。中小機構の調査では、AI・ITの導入でセキュリティや情報漏えいに「強い懸念がある」「多少懸念がある」と答えた企業が合わせて75.2%です。
大企業との差がはっきり出ているのがルールです。総務省の情報通信白書のデータは、勤め先の会社について答えた人の割合です。生成AIのリスク対策として「全社的な指針やガイドラインを整備している」は、大企業44.9%に対して中小企業29.1%でした。「特に実施している施策はない・把握していない」は、中小企業で24.1%です。生成AIの活用方針を「明確に定めていない」中小企業も31.5%ありました。
中小企業が明日できる手|1枚ルールの文例と、ツールの設定チェック
長い規程は要りません。まずは次の6行を社内に配り、迷ったら推進役に聞く形で始めます。
- 仕事でAIを使うときは、会社が決めたツールと、会社で契約したアカウントだけを使う
- お客様や社員の個人情報、パスワード、未公開の決算や取引の条件は入れない
- 取引先の名前を含む見積書や議事録は、会社が認めた設定のツールでだけ扱う
- AIが作った文書は、数字・固有名詞・日付を人が確かめてから社外に出す
- 使ってよいか迷ったら、使う前に推進役(〇〇さん)に聞く
- このルールは3か月ごとに見直す(次は〇月〇日)
| 確かめること | 見る場所 |
|---|---|
| 入力した内容が、AIの学習に使われない設定か | ツールの設定画面と、法人向けプランの説明 |
| 会社が管理するアカウントか(個人の無料アカウントでないか) | 契約の名義と、管理画面 |
| 退職者や異動者の利用を、管理者が止められるか | 管理画面のユーザー管理 |
| データの保存先や保存期間が書かれているか | 利用規約・データの取り扱いのページ |
ルールに入れる項目を10個に広げた版は、生成AIの社内ルールの作り方で解説しています。
5. 入れたのに社員が使わない・続かない
数字で見ると
導入した後にも壁があります。中小機構の調査で、AIの運用課題に「従業員による活用が進まない」を挙げた企業は、全社的に導入している企業(57社)で40.4%でした。一部の業務で導入している企業(272社)でも36.0%です。導入していない企業も含む全体(28.9%)より高い数字です。報告書は、AIは指示(プロンプト)しだいで精度が変わり、使う人のスキルに左右されやすいと分析しています。
会社としての取り組みも追いついていません。総務省の情報通信白書では、勤め先に生成AIを使う方針があると答えた人は中小企業で58.1%(大企業74.0%)でした。一方で、業務の見直しに組織的な取り組みはないという答えは中小企業で45.6%(大企業18.1%)です。
効果の中身も、まだ時間短縮が中心です。IPAの「DX動向2026」(全規模)では、AI導入の効果が「期待以上」「期待どおり」と答えた企業は合わせて31.8%でした。「一定の効果はあった」は50.6%です。効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%で、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまります。
中小企業が明日できる手|「使う場面」を手順に書き込む
「自由に使ってください」では、忙しい時期に元のやり方へ戻ります。使う場面を業務の手順書の1行として書き、次の3つを決めます。
| 決めること | 例(受注メールの入力) |
|---|---|
| どの手順で使うか | 「受注メールを受けたら、まず共有の指示文でAIに注文内容を一覧にさせる」と手順書に書く |
| 誰が何を確かめるか | 品番・数量・納期は入力担当が確かめ、迷う注文は営業に回す |
| 何を測るか | 1件あたりの入力時間と、入力ミスの件数を月末に数える |
- □ うまくいった指示文を、共有フォルダに業務名で保存している
- □ 月に1回15分、使った人が「うまくいった例・失敗した例」を1つずつ出す場がある
- □ 測った数字を、社長が自分で見ている
- □ 次に広げる業務が、1の書き出し表から決まっている
すぐ使える部署別の指示文は、業務効率化×AI プロンプト&事例15選に集めています。
結論|5つの課題は「1業務・1担当・1つの数字」から越える
| 課題 | 主な数字 | 明日できる手 |
|---|---|---|
| 1. 使う業務が思い浮かばない | 63.4%(中小企業庁) | 先週の仕事を10行書き出し、3つの「はい」がそろう業務を選ぶ |
| 2. コストが高い・効果が見えない | 46.9%(中小機構) | 費用と効果を「年」にそろえた計算表を作り、公的支援の条件を確かめる |
| 3. 進める人・ノウハウがない | 40.0%(中小企業庁) | 業務を知る人を推進役に指名し、週2時間と4週間の宿題を渡す |
| 4. ルールがない・漏えいが心配 | 26.2%・14.5%(中小企業庁) | 6行の1枚ルールを配り、ツールの設定を4項目確かめる |
| 5. 社員が使わない・続かない | 全社導入40.4%・一部導入36.0%(中小機構) | 使う場面を手順書に書き、確かめる人と測る数字を決める |
最初の1歩は、明日の朝15分、社長と担当者で先週の仕事を10行書き出すことです。そこから1つの業務を選べば、2〜5の課題も「その業務について」考えればよくなり、費用の計算もルールづくりも小さく始められます。
シス学の場合|課題の整理も「作業・確認・判断」に分けて進めます
シス学(システム経営学)は、AIエージェントを活用し、会社を「儲かるシステム」につくり変える経営学です。この記事の1と2(使う業務を選び、費用と効果を比べる)を例にすると、仕事を次のように分けます。
| 任せ先 | 受け持つ仕事 | 中身 |
|---|---|---|
| AI | 作業 | 日報や予定表から業務と時間の一覧を下書きし、削れる時間×人件費の試算表を作る |
| 社員 | 確認 | 抜けている業務と、1回の時間が実態と合っているかを直す |
| 社長 | 判断 | どの業務から任せるか、年にいくらまでかけるかを決める |
削れた作業時間を、人件費と粗利の数字で確かめるところまでを一緒に行うのが、シス学のAIコンサルティングです。料金は、対象の業務と体制をお聞きしたうえで、無料相談でご案内します。
関連資料
- 中小企業のAI導入の進め方|何から始めるか、5つのステップで解説:この記事で選んだ業務を、試してから全社に広げるまでの手順
- 中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」:この記事の数字の多くの出典。業種別・部門別の導入率も載っている(PDF、70ページ)
無料相談
「書き出してみたが、どの業務から始めるか決めきれない」「見積もりが妥当か分からない」という段階でもかまいません。まずは30分の無料相談で、今の状況をお聞かせください。全国オンラインで対応しています。
よくある質問
中小企業のAI導入が進まない一番の理由は何ですか?
中小企業庁の資料では、省力化の投資でAIを活用していない中小企業の63.4%が「活用する業務がイメージできていない」と答え、最も多い理由でした(複数回答)。中小機構の調査では、阻害要因の1位は「導入にあたっての高コスト」(46.9%)です。
中小企業の生成AIの導入率はどのくらいですか?
調査によって聞き方が違います。中小機構の調査ではAIを導入している中小企業は20.4%で、そのうち82.6%が生成AIを使っています。総務省の情報通信白書では、勤め先に生成AIを使う方針があると答えた人は、中小企業で58.1%(大企業は74.0%)でした。IPAの調査では、従業員100人以下の企業のAI導入は16.6%です。
AI導入のコストは、どう考えればよいですか?
ツールの利用料(1人あたりの月額×人数×12か月)、設定・開発、研修、社内の時間を年の金額にそろえ、削れる時間×人件費の年額と比べます。中小機構の調査では、コスト削減を目的にAIを入れた企業の59.2%が具体的な目標を決めていませんでした。先に目標を決めることが、費用の判断の出発点です。
AI導入に補助金や助成金は使えますか?
ソフトウェアやクラウドの導入にはデジタル化・AI導入補助金(通常枠は補助率1/2以内など)、社員の研修には人材開発支援助成金が関係します。どちらも条件と申請の順番の決まりがあり、審査で決まります。公式ページの公募要領や案内で確かめてください。
中小企業でDXが進まない理由も同じですか?
重なる部分があります。IPAの「DX動向2026」では、DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業の理由は、「自社がDXに取組むメリットがわからない」(54.0%)が最多でした。AIと同じく、自社のどの業務がどう変わるかを具体的にすることが先です。



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