AI推進担当とは|なぜ要るのか。中小企業の85.9%にはまだいない
AI推進担当とは、社内のどの仕事にAIを使うかを現場と一緒に探し、試し、うまくいったやり方を手順とルールにして広げ、その効果を社長に報告する係です。AIに一番詳しい人ではなく、現場の困りごとと社長の方針をつなぐ人、と考えると選びやすくなります。
総務省の令和8年版 情報通信白書は、AI活用の先進企業へのヒアリングから、組織の形をこうまとめています。出発点は事業部門の現場のニーズや課題です。そこに、AI活用を進めるDX推進部門が、アイデア出し、技術的な助言、セキュリティ対策、効果測定、学び合いの場づくりで伴走します。中小企業では、この推進部門の仕事を、まず1人の担当が受け持ちます。
推進の仕事は4つの役割に分かれる
| 役割 | 中身 | 大きな会社での担い手 | 中小企業での担い手 |
|---|---|---|---|
| 旗振り(推進リーダー) | 目的と目標を決め、予定を管理し、社内に必要性を伝える | 経営企画、DX推進室 | 社長と推進担当の2人で分ける |
| 業務の代表 | AIを使う業務の候補を出し、実際に試して結果を返す | 各部門の管理職・担当者 | 各部門の窓口1人(兼任) |
| 技術の支え | ツールの選定、設定、セキュリティ、社内ルール | 情報システム部門、外部の会社 | 推進担当+外部の相談先 |
| 教えて広げる | 指示文の例、使い方の手順書、社内の勉強会 | 人事・研修の部門 | 推進担当(最初は外部の研修で補う) |
AI推進担当・推進委員会・AI推進室の違い
| 呼び方 | 形 | 人数の目安 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| AI推進担当 | ふだんの仕事と兼ねる担当を1人置き、社長に直接報告する | 1〜2人 | 社員30人ほどまで。まずはここから |
| 推進委員会(プロジェクト) | 各部門から1〜2人ずつ集まり、月1回など決まった日に進める | 部門の数×1〜2人 | 部門が3つ以上あり、部門ごとに仕事が違う会社 |
| AI推進室(専任の部署) | AIの推進を本業とする部署をつくる | 専任2人以上 | 複数の業務でAIを本番に使い、仕組みの開発も続ける段階 |
| 外部と組む | 社外の顧問や支援会社と月ごとに進め、社内の担当が受け止める | 社内1人+外部 | 社内に詳しい人がいない、最初の半年〜1年 |
数字で見る|進める人がいないと、AIは個人の使い方で止まる
中小機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(令和8年3月)で、AI・ITの導入や活用を推進する部署と担当者の有無を聞いた結果です。専任の部署がある中小企業は2.3%で、まずは兼任の担当から始めるのがふつうです。
| 項目 | 専任がある | 専任ではないがある | ない(経営者・現場が個別に推進) |
|---|---|---|---|
| 推進する担当部署(n=1,605) | 2.3% | 9.7% | 88.0% |
| 推進する担当者(n=1,568) | 3.0% | 11.1% | 85.9% |
進める人がいないことは、AIを使わない理由にも出ています。中小企業庁の白書の概要資料で、2019年以降の省力化の取り組みでAIを活用していない中小企業(3,888社)に理由を聞いた結果です(複数回答)。1位は「活用する業務がイメージできていない」の63.4%、2位が「活用を推進する人材が不足している」の40.0%でした。
使っている会社でも、AIは個人の使い方で止まりがちです。IPAの「DX動向2026」(大企業も含む全規模)で、生成AIを導入・試験利用・検討している企業に使われ方を聞きました。「個人で業務利用している」は63.3%でしたが、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は11.9%、「全社的なサービスに組み込まれている」は18.6%でした。1人が便利に使う状態から、会社の手順にAIが入る状態に移すには、決めて、試して、手順にする人が要ります。
責任の所在をはっきりさせている中小企業も、まだ少数です。総務省の情報通信白書の企業向け調査は、回答者が勤め先について答えたものです。生成AIに組織として取り組む会社に施策を聞くと、中小企業で「取組を推進する部署や責任者が明確になっている」は22.8%でした(大企業29.6%)。中小企業で最も多かったのは「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」の32.9%です。白書は、中小企業ではトップダウンの関与が鍵だと見ています。社長が目標を示し、担当が進める組み合わせが、中小企業の形です。
AI推進担当を決めて動かす7ステップ|任命から90日で最初の成果を出すまで
| ステップ | 誰が | 期間 | できあがるもの |
|---|---|---|---|
| 1. 目的と目標を1行で決める | 社長 | 1日 | 「何のために・何を・いつまでに」の1行 |
| 2. 体制の型を選ぶ | 社長 | 1日 | 4つの型のどれで始めるか |
| 3. 担当を選び、時間を空ける | 社長 | 1週間 | 担当の名前と、毎週の固定の時間 |
| 4. 役割分担表をつくる | 社長・担当 | 1日 | 誰が決め、誰がやるかの表 |
| 5. 任命して全社に伝える | 社長 | 1日 | 社長名の社内文 |
| 6. 最初の90日を3つに区切って回す | 担当・現場 | 90日 | 1業務の手順書と、前後の数字 |
| 7. 毎月の報告で続け、広げる | 社長・担当 | 毎月 | 続ける・広げる・やめるの判断 |
ステップ1:目的と目標を1行で決める
担当を決める前に、社長が「何のためにAIを使うか」を1行で書きます。目標を示すのは社長の仕事で、担当に考えさせるものではありません。書き方の例:「見積書と受注入力の時間を、来年3月までに今の半分にする。浮いた時間は既存のお客様への提案に使う」。
ステップ2:体制の型を選ぶ(4つの型と3つの判断軸)
IPAの「DX動向2026」で、AIを導入・試験利用・検討している企業に、誰が主導しているかを聞いた結果です(全規模)。「IT部門の長」46.0%、「経営層」32.1%、「導入や利活用する現場の長」27.5%でした。「CAIO(最高AI責任者)」は2.9%、「CAIO以外の専任者」は9.8%です。主導する人によって、進み方の癖が違います。
| 型 | 主役 | 強み | 弱み | 弱みを埋める手 |
|---|---|---|---|---|
| 社長直轄型 | 社長+兼任の推進担当 | 決めるのが速い。予算と人の配置をすぐ変えられる | 現場が「やらされ」になり、試しても使われない | 各部門の窓口を1人ずつ決め、試す業務は現場から出してもらう |
| 現場主導型 | 業務部門の管理職・担当 | 困りごとに直結し、小さな成果が早く出る | 部門ごとにツールとルールがばらばらになり、全社に広がらない | 使うツールと社内ルールだけは最初に全社で1つに決める |
| IT・総務主導型 | 情報システム・総務の担当 | セキュリティと設定が安定する | 現場の業務が分からず「便利だが使われない」になりやすい | 何を変えるかは業務の代表が決め、IT・総務は支える側に回る |
| 横断チーム型(推進委員会・推進室) | 各部門から集めたメンバー | うまくいったやり方を部門をまたいで広げやすい | 権限がないと「調整するだけの会議」になる | 社長が委員長になるか、予算と決める範囲を書面で渡す |
| 判断軸 | 確かめる問い | 「いいえ」のときの選び方 |
|---|---|---|
| 権限 | 推進する人が、予算・人の時間・業務の手順・使うツールのうち3つ以上を決められるか | 社長直轄型にし、決める仕事は社長に残す |
| 目標 | 何がどう変われば成功か(時間、件数、手直し)を数字で言えるか | ステップ1の「目的と目標の1行」に戻る |
| 人 | 業務の流れが分かる人と、ツールの設定ができる人を社内でそろえられるか | 業務が分かる人を担当にし、設定は外部の相談先で補う |
迷ったら、社長直轄型で始め、試す業務が3部門以上に広がった時点で推進委員会に切り替えます。どの型でも、推進の中心には業務が分かる人を置きます。総務省の白書も、AIを効果的に進める企業の共通の要素として、規模にかかわらず次の3つを挙げています。経営層の理解やリーダーシップ、現場の個別のニーズや課題に応じた検討、段階的な推進です。
ステップ3:担当を選び、毎週の時間を先に空ける
候補者と15分話して、次の5つを確かめます。右の列の問いは、そのまま面談で使えます。
| 基準 | 理由 | 面談で聞く問い |
|---|---|---|
| 1. 対象の業務の流れを知っている | AIに任せる作業と、人が確かめる所を切り分けられる | 「受注から請求までで、いちばん時間がかかっている所はどこですか」 |
| 2. 部門をまたいで頼みごとができる | 試す人を集め、使い方を変えてもらうのが仕事の半分 | 「ほかの部署に手順を変えてもらった経験はありますか」 |
| 3. 新しいことを自分で試している | ツールは毎月変わる。最初の一歩を自分で踏める人が要る | 「最近、仕事のやり方を自分で変えたことは何ですか」 |
| 4. うまくいかなかったことも記録できる | 続ける・やめるの判断は、失敗の記録がないとできない | 「試してだめだったことを、どう人に伝えますか」 |
| 5. 数字で考えられる | 社長への報告は、時間・件数・手直しの数字で行う | 「今の仕事で、1件に何分かかっているか言えますか」 |
各部署から希望者を募る方法もあります。後の「実際の進み方」の節のアイニコグループは、挑戦したい社員を募って21名で始めました。避けたいのは、次の4つの選び方です。
- パソコンに詳しいという理由だけで選ぶ:設定はできても、業務の手順に入らない。業務の代表と組ませるか、業務が分かる人を主にする
- 役職だけで管理職を指名する:忙しくて試す時間が取れず、名前だけの担当になる。管理職にするなら、ふだんの仕事を誰に渡すかを同時に決める
- 新人や若手1人に押しつける:部門に頼みごとが通らない。社長が任命し、社長の名前で全社に伝える
- 外部の会社に丸投げする:やり方が社外に残り、契約が終わると止まる。外部は相談先にし、手順書は社内の担当が持つ
選んだら、試す時間を社長がカレンダーに先に入れます。兼任の担当が「空いた時間にやる」では、繁忙期に止まります。たとえば週4時間を推進の時間にするなら、その4時間分のふだんの仕事を誰に渡すかまで決めます。1つの業務を4週間で試す宿題の例は、中小企業のAI導入が進まない課題の「3. 進める人がいない」に載せています。
ステップ4:役割分担表(RACI)をつくる
「誰がやるか」と「誰が決めるか」を分けて書くのが、役割分担表です。英語の頭文字でRACI(実行・最終責任・相談・共有)と呼ばれます。決める人(最終責任)は、1つの仕事に1人だけにします。
| 仕事 | 社長 | 推進担当 | 各部門の窓口 | 外部の相談先 |
|---|---|---|---|---|
| 目的と目標を決める | 決める | 相談 | 共有 | 相談 |
| 使うツールを決める | 決める | やる(比べて案を出す) | 相談 | 相談 |
| 社内ルールをつくる | 決める | やる(案をつくる) | 相談 | 相談 |
| 試す業務を選ぶ | 決める | やる | やる(候補を出す) | 共有 |
| 1つの業務で試す | 共有 | 決める | やる | 相談 |
| 手順書と指示文を残す | 共有 | 決める | やる | — |
| 効果を測って報告する | 共有 | やる・決める(測り方) | やる(記録) | — |
| 続ける・広げる・やめる | 決める | やる(案を出す) | 相談 | 相談 |
ステップ5:任命して、社長の名前で全社に伝える
担当が部門に頼みごとをするとき、社長の後ろ盾があるかどうかで通りやすさが変わります。任命は口頭で済ませず、社長の名前で社内文を出します。書くのは、目的・担当・頼みたいこと・入れてはいけない情報の4つです。文例は、このあとの「そのまま使える文例」に載せています。
ステップ6:最初の90日を3つに区切って回す
| 期間 | 社長 | 推進担当 | 各部門の窓口 |
|---|---|---|---|
| 1〜30日:知る | 任命の社内文を出す。週1回5分の報告を受ける | 各部門に聞き取りをし、AIに任せたい作業の候補を10件書き出す。使うツールと1枚のルールの案をつくる | 自分の部門の困りごとを3つ出す |
| 31〜60日:試す | 試す1業務を決める | 1業務で試し、うまくいった指示文と確かめ方を記録する | 担当と一緒に本番の書類で試し、困った点を返す |
| 61〜90日:残す | 前後の数字を見て、続ける・広げる・やめるを決める | 手順書と指示文を共有フォルダに置き、2つ目の業務の案を出す | 手順書どおりにほかの人が使えるか確かめる |
1つの業務の試し方を細かく知りたい場合は、中小企業のAI導入の進め方で解説しています。業務の候補の書き出し方は業務の棚卸しとは?が参考になります。
ステップ7:毎月の報告で続け、体制を広げる
90日を過ぎたら、月1回の定例で数字を見て、次の業務を決めます。体制は、進み具合に合わせて次のように広げます。
| 段階 | 体制 | 会議 | 見る数字 |
|---|---|---|---|
| 試す(1業務) | 社長+推進担当+業務の代表1人 | 週1回5分の報告 | 1件あたりの時間、手直しの件数 |
| 広げる(2〜5業務) | 推進担当+各部門の窓口 | 月1回の定例(60分) | 本番で使っている人数、業務ごとの削れた時間 |
| 定着させる(全社) | 推進委員会、または専任を置く | 月1回の定例+四半期ごとの振り返り | 削れた時間の合計、手順書の数、新しく入った人が使えるまでの日数 |
そのまま使える文例とプロンプト6本|任命・役割メモ・聞き取り・報告
〔 〕の所を自社の内容に置き換えて使います。プロンプトに、お客様や社員の個人情報、未公開の取引の条件は入れないでください。個人情報保護委員会も、生成AIサービスに個人情報を入れる場合の注意を呼びかけています。
文例1:任命の社内文(社長名で出す)
「〔日付〕 社員各位 〔社長名〕 AI推進担当の任命について。当社は〔来年3月〕までに、〔見積書と受注入力〕の時間を今の半分にすることを目標に、AIを使った仕事の見直しを始めます。推進担当に〔氏名〕さんを任命します。〔氏名〕さんは毎週〔火曜の午後〕をこの仕事に充てます。各部門の皆さんには、困っている作業の聞き取りと、試しに使う時間への協力をお願いします。お客様や社員の個人情報、未公開の取引の条件は、AIに入力しないでください。使ってよいか迷ったら、使う前に〔氏名〕さんに聞いてください。」
文例2:推進担当の役割メモ(1枚)
- 目的:〔ステップ1の1行〕
- 任せること:AIに任せる作業の候補探し、1業務での試行、手順書と指示文の作成、社内ルールの案、月1回の報告
- 決めてよいこと:試し方、測り方、手順書の書き方。〔月〇円〕までのツールの試用
- 社長が決めること:使うツール、社内ルール、試す業務、続ける・広げる・やめる
- 時間:毎週〔4〕時間。その間の〔請求書の発行〕は〔氏名〕さんが受け持つ
- 報告:毎週〔金曜〕に5分。毎月〔第1月曜〕に定例
- 相談先:〔外部の相談先・よろず支援拠点など〕
プロンプト3:部門の聞き取りメモを、AIに任せる作業の候補表にする
「あなたは中小企業の業務改善の担当です。次は〔営業部〕の聞き取りメモです。〔メモを貼る〕。この中から、AIに下書き・転記・要約・照合を任せられそうな作業を表にしてください。列は『作業名』『週の回数』『1回の時間』『AIに任せる部分』『人が確かめる所』『判断が要るので人に残す部分』です。メモに書かれていない数字は『不明』と書き、推測で埋めないでください。」
プロンプト4:社長への月次報告を下書きする
「次は今月のAI推進の記録です。〔試した業務、使った人数、1件あたりの時間の前後、手直しの件数、困った点を貼る〕。社長に出す月次報告を、A4で1枚に下書きしてください。順番は、1. 今月の結果(数字)、2. うまくいったこと、3. うまくいかなかったことと原因、4. 来月やること、5. 社長に決めてほしいこと(選択肢を2つ)です。記録にない数字は書かず、『記録なし』としてください。」
プロンプト5:社員からの質問を、社内のよくある質問集にまとめる
「次は、今月社員から推進担当に来たAIの使い方の質問です。〔質問を貼る。氏名は消す〕。似た質問をまとめ、『質問』『答え』『関係する社内ルールの番号』の表にしてください。答えは当社の社内ルール〔ルールの本文を貼る〕に書いてある範囲だけで書き、ルールに書いていないものは『推進担当に確認』としてください。」
プロンプト6:月1回の定例の議題をつくる
「AI推進の月1回の定例会議(60分、出席は社長・推進担当・各部門の窓口〔3〕人)の議題を作ってください。先月決めたこと〔貼る〕と今月の結果〔貼る〕をもとに、1. 先月決めたことの結果、2. 数字の確認、3. 困っていることの共有、4. 次に試す業務の決定、5. 次回までの担当と期限、の順に、時間配分つきで書いてください。最後に、社長が決める必要がある事項だけを箇条書きにしてください。」
AIが作った報告や表は、推進担当が元の記録と照らして数字を確かめてから社長に出します。社内ルールそのものの作り方は、生成AIの社内ルールの作り方で解説しています。
推進担当を置けない・育てたいとき|外の力の選び方
社員が少なく、推進担当を置く余裕がない会社もあります。その場合は、社長が旗振りを受け持ち、推進担当の仕事の一部を外に頼みます。頼む先ごとの違いは次のとおりです。
| 頼む先 | 補える仕事 | 確かめること |
|---|---|---|
| よろず支援拠点 | 経営の相談の中で、どこから手を付けるかを相談する | 国が設置し、何度でも無料で相談できる経営相談所で、47都道府県にある。AIに詳しい相談員がいるかは拠点ごとに確かめる |
| AI顧問・伴走型のコンサル | 月ごとの定例と随時の相談で、試す業務の選定から効果の確認まで一緒に進める | 月に何をしてくれるか、社内に手順書が残るか。詳しくはAI顧問とは? |
| 外部の研修 | 推進担当と現場に、業務での使い方を教える | 自社の業務を題材にするか。推進担当の育て方はAI人材育成とは? |
外の力を借りる場合も、社内に受け止める人を1人は決めます。外部とのやり取りを1人に集め、決めたことを社内の手順書に書き写す役です。いずれ外部に頼む範囲を減らしたい場合の線引きは、AI内製化とは?で解説しています。
AI推進でよくある失敗と対策|担当を決めても止まる5つのパターン
失敗1:IT・総務の担当だけで進め、現場で使われない
ツールの設定とルールが整っても、現場の手順に入らなければ使われません。中小機構の調査では、AIを全社的に導入している企業(57社)でも、運用の課題に「従業員による活用が進まない」を挙げた企業が40.4%ありました。対策:試す業務と成功の基準は、各部門の窓口が出します。IT・総務の担当は、ツールとセキュリティを支える側に回ります。
失敗2:現場任せにして、社長が数字を見ない
部門ごとに好きなツールを使い始めると、成果が見えず、予算を続ける判断ができません。対策:社長が月1回の定例に出て、数字を自分で見ます。使うツールと社内ルールだけは、最初に社長が全社で1つに決めます。
失敗3:兼任のまま時間が取れず、担当が疲れて止まる
中小機構の調査で、AI導入後の運用の課題の2位は「運用担当者の負荷が重い」の29.1%でした。1位は「ランニングコストが高い」の44.0%です(導入していない企業も含む回答)。対策:推進の時間をカレンダーに固定し、その間のふだんの仕事を誰に渡すかを社長が決めます。各部門の窓口を置き、聞き取りと記録を分けて受け持ちます。
失敗4:誰が決めるかが曖昧で、会議が「報告するだけ」になる
推進委員会をつくっても、決める人がいないと、毎月同じ課題が残ります。対策:ステップ4の役割分担表で、仕事ごとに決める人を1人にします。定例の最後に「次回までに誰が何をするか」と「社長が決めること」を必ず確かめます。
失敗5:外部に任せきりで、社内にやり方が残らない
外部の専門家は、進め方の判断に役立ちます。総務省の白書のアイニコグループの事例では、専門家の支援が特に有効だった場面が2つ挙がっています。「その課題はAIで解決すべきか」という課題設定の判断と、始めたあとの個別の相談です。対策:外部は相談先にとどめ、手順書と指示文は社内の推進担当が書いて、共有フォルダに残します。
実際の進み方|アイニコグループは兼任21名の1年で、年間2,247時間の削減を報告
総務省の令和8年版 情報通信白書に載った、中小企業の事例です。アイニコグループは、奈良県や京都府南部を中心に、注文住宅、リフォーム、介護、保育などを手がけています。社内でChatGPTなどは入っていましたが、個人の利用にとどまり、業務全体にどう広げるかが課題でした。
| 段階 | やったこと | この記事のステップ |
|---|---|---|
| 始める前 | 専門の支援業者と連携し、全社員向けの勉強会で、AIで何ができるかを体験してもらった | — |
| メンバー集め | AI活用に挑戦したい社員を各部署から募り、全10事業部から2名程度、計21名が参加した | ステップ3 |
| 進め方 | 各事業部の課題から目標を決め、週1回1時間ほどの勉強会で進み具合の確認と専門家の助言を受けた | ステップ6 |
| 節目 | 3か月・6か月・12か月の節目で成果を共有し、12か月目に最終報告会を開いた | ステップ7 |
| ルール | 個人情報を入力しない、オプトアウトの設定を必ず行う、などの最低限のルールを周知した | 文例1 |
| その後 | 勉強会を月1回続け、2026年4月からは各部門からAI活用専任のスタッフを選ぶ予定 | ステップ7(専任を置く) |
参加者は、ふだんの業務と並行して取り組みました。最終報告会では、全10事業部の合計で年間2,247時間分の業務時間の削減が報告されています。内訳には、広報部門の社内業務の自動化で年間880時間、不動産事業部門の問い合わせ対応のテンプレート化・自動化で年間897時間が含まれます。介護事業部門では、送迎ルートを最適にする仕組みなどで年間170時間でした。
兼任のチームで始め、成果が見えてから専任を置く順番です。白書によると、同社にはもともと業務フローやチェックシートを整え、手順を動画にする習慣がありました。この仕組みづくりの風土が、AIの活用にも有効だったと同社は感じているそうです。
シス学の場合|推進担当の仕事も「作業・確認・判断」に分けます
シス学(システム経営学)は、AIエージェントを活用し、会社を「儲かるシステム」につくり変える経営学です。推進担当の月次の仕事を例にすると、次のように分けます。
| 受け持つ人 | 仕事 | 中身 |
|---|---|---|
| AI | 作業 | 各部門の記録から、時間・件数・手直しの集計と月次報告の下書き、社員の質問のまとめ、定例の議題案をつくる |
| 社員(推進担当) | 確認 | 集計を元の記録と照らし、繁忙期や新しい取引先などの例外を書き足し、各部門の窓口と話して直す |
| 社長 | 判断 | 次に試す業務、使うツール、続ける・広げる・やめる、推進に使う時間と予算を決める |
社長に集まっていた下書きや確認をAIと社員に渡し、社長は表の「判断」の行だけに時間を使う分け方です。推進担当の仕事そのものを手順にしておくと、担当が替わっても同じように回せます。
社内に推進役がいない会社には、シス学 AIコンサルティングで、社内の担当と一緒に進めます。月1回の定例ミーティング(90分)、月1回のオンライン壁打ち・相談会(60分)、月内のチャット相談を通して進める形です。担当者向けの研修はシス学 AI研修で行います。料金は、対象の業務と体制をお聞きしたうえで、無料相談でご案内します。まずは30分の無料相談からご相談ください。
まとめ
- AI推進担当は、現場と社長の間に立ち、AIを使う業務を探し、試し、手順とルールにして広げ、効果を報告する係
- 中小機構の調査では、推進する担当者がいない中小企業が85.9%、専任の担当部署があるのは2.3%。まずは兼任の担当1人+社長直轄で始める
- 体制は社長直轄・現場主導・IT総務主導・横断チームの4つの型。権限・目標・人の3つの軸で選ぶ
- 人選は「業務の流れを知っている」が第一。時間を先に空け、役割分担表で決める人を1人にし、社長の名前で任命する
- 最初の90日は「知る・試す・残す」。手順書を共有フォルダに置き、2人目が回せたら次の業務へ広げる
最初の1歩として、明日15分、ステップ1の「目的と目標の1行」を紙に書いてください。次に、人選の5つの基準の表に推進担当の候補2人の名前を書き、○×を付けます。○が多い人と話す時間を今週中にカレンダーに入れれば、推進体制づくりが始まります。
よくある質問
AI推進担当は何をする人ですか?
社内のどの仕事にAIを使うかを現場と一緒に探し、1つの業務で試し、うまくいったやり方を手順書と社内ルールにして広げ、効果を社長に報告する係です。総務省の情報通信白書は、先進企業のDX推進部門が、アイデア出し、技術的な助言、セキュリティ対策、効果測定、学び合いの場づくりで現場に伴走する形をまとめています。
AI推進担当は専任と兼任のどちらがよいですか?
中小企業は兼任から始めるのが現実的です。中小機構の調査でも、専任の担当者がいる中小企業は3.0%、専任ではない担当者がいる企業は11.1%でした。兼任にする場合は、毎週の推進の時間を先に決め、その間のふだんの仕事を誰に渡すかまで社長が決めます。
AI推進室は中小企業にも必要ですか?
最初から専任の部署をつくる必要はありません。推進担当1人と社長で1つの業務の成果を出し、業務が増えたら各部門の窓口を集めた推進委員会に広げます。AIを本番で使う業務が複数になってから専任を置く順番が手堅い進め方です。総務省の白書に載った中小企業の事例でも、兼任のプロジェクトを1年続けたあとに専任のスタッフを選ぶ予定としています。
AI推進担当には誰を選べばよいですか?
パソコンに詳しい人より、AIを使う業務の流れを知っている人を選びます。そのうえで、部門をまたいで頼みごとができるか、新しいことを自分で試しているか、失敗も記録できるか、数字で考えられるかを確かめます。自分から手を挙げた人を、各部門から1〜2人ずつ集める方法もあります。
情報システム部門や総務に任せてもよいですか?
ツールの設定やセキュリティは任せられますが、何を変えるかを決めるのは業務の代表にします。IPAの調査では、AIの導入を主導しているのは「IT部門の長」が46.0%で最も多い結果でした。ただ、ITだけで進めると現場の手順に入らず、使われないことがあります。IT・総務は支える側、業務部門と社長が決める側、と分けます。
AI推進担当の成果は、どう評価すればよいですか?
研修の回数やツールの数ではなく、対象業務の1件あたりの時間、本番で使っている人数、手直しの件数、共有された手順書の数で見ます。最初の90日は、1つの業務の手順書ができ、推進担当以外の人がその手順で使えたかを、評価の目印にします。



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