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事業承継の準備はいつから何を?国の5ステップと、社長の頭の中を残す方法

事務所で、座った社員のノートPCの画面を、横に立った上司が指さしながら一緒に確かめている様子

事業承継はいつか考えなければならない。そう思いながら、何から手をつければよいのか分からず、日々の仕事に追われている。事業承継を考え始めた社長が、最初にぶつかる悩みです。

中小企業庁の事業承継ガイドラインによると、後継者を決めてから承継が終わるまでに、3年以上かかる割合が半数を上回ります。10年以上かかる割合も、少なくありません。準備を先延ばしにすると、時間があれば選べたはずの道が、少しずつ失われていきます。

準備でつまずきやすいのは、株式や後継者の話より前の、社長の頭の中にある仕事です。見積書の金額の決め方、取引先との付き合い方、例外の判断。書類に残っていないものは、渡そうにも渡せません。この記事では、ガイドラインの5ステップに沿って、いつから始めるか、最初の1か月で何をするか、頭の中の仕事を渡せる形にするにはどうするかを解説します。

事業承継の準備とは?渡すものは「経営」「資産」「知的資産」の3つ

事業承継とは、会社や事業を後継者に引き継ぐことです。準備とは、引き継ぐ日までに、渡すものを整え、誰に、いつ、どのように渡すかを決めておくことを指します。

中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版)によると、事業承継は、株式の承継と代表者の交代だけだと考えられがちです。しかし実際は、事業そのものを引き継ぐ取組で、渡すものは次の3つに分けられます。

事業承継ガイドラインが示す、承継する3つのもの
承継するもの中身準備で最初にすること
人(経営)後継者への経営権の承継。会社なら代表取締役の交代後継者候補の有無を確かめる。候補がいれば、本人の意思を確かめる
資産設備や不動産などの事業用資産、債権、債務、自社株式。贈与税・相続税が関わることがある自社株式の数を確認し、早めに税理士に相談する
知的資産人材、技術、技能、ブランド、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなど、決算書に表れない強み自社の強みがどこにあるかを書き出す

株式の承継は大きな課題ですが、ガイドラインは、事業承継の取組全体の中では資産の承継の一部だとしています。株式や不動産を贈与・相続で渡すときは、贈与税・相続税がかかることがあるため、準備の早い段階で税理士などに相談することが勧められています。

誰に渡すかで、3つの型がある

  • 親族内承継:子や親族に引き継ぐ
  • 従業員承継:役員や従業員に引き継ぐ
  • 社外への引継ぎ(M&A):株式譲渡や事業譲渡で、社外の第三者に引き継ぐ。親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を探せる

事業承継の準備はいつから?目安は60歳、60歳を超えていれば今日から

ガイドラインは、準備を始める目安を示しています。根拠は2つです。1つ目は、中小企業経営者の平均引退年齢が70歳前後であること。2つ目は、後継者を決めてから承継が終わるまでの移行期間が、3年以上かかる割合が半数を上回り、10年以上かかる割合も少なくないことです。

この2つを踏まえて、概ね60歳頃には事業承継に向けた準備に着手することが望ましい、としています。

社長の年齢別に見た、ガイドラインの考え方
社長の年齢ガイドラインの考え方
概ね60歳準備に取りかかることが望ましい
60歳を超えている速やかに、身近な支援機関に相談する
70歳を超えているすぐにでも、準備に着手する

白書の数字でも、経営者の年齢は高い水準にあります。2025年版の中小企業白書によると、中小企業の経営者は、60歳以上が過半数を占めています。また白書は、帝国データバンクの調査として、全国の経営者の平均年齢が2024年に60.7歳だったと紹介しています。

準備を遅らせると、選べる道が減る

ガイドラインは、準備を先延ばしにすると、時間に余裕があれば選べた選択肢が、徐々に失われると指摘しています。たとえば、後継者や引継ぎ先を選ぶのに、時間をかけられなくなります。

社長も、いつまでも現場に立ち続けられるわけではありません。60歳に届いていない場合も、準備の第一歩である社長の仕事の書き出しは、今日から始められます。

事業承継の準備の進め方|国のガイドラインが示す5ステップ

中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版、令和4年3月改訂)は、準備から実行までを5つのステップで示しています。ステップ1から3で会社の足腰を固め、ステップ4で計画を立て、ステップ5で実行します。

事業承継に向けた5ステップ(中小企業庁 事業承継ガイドライン 第3版)
ステップ内容社長が最初に手をつけること
1 準備の必要性の認識準備が必要だと認識し、身近な支援機関に相談する事業承継診断(対話形式、10分程度)を受ける
2 経営状況・経営課題等の把握(見える化)経営状況、経営課題、経営資源を見える化し、強みと弱みをつかむ決算書、自社株式、会社と社長個人の貸し借りの確認。社長の仕事の書き出し
3 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)後継者が引き継ぎたくなる会社に整える規程やマニュアルの整備、業務権限の委譲
4 事業承継計画の策定(社外への引継ぎは、M&Aの工程の実施)いつ、どのように、何を、誰に承継するかを決める後継者、家族、金融機関と話し合う
5 事業承継・M&Aの実行計画に沿って、資産の移転と経営権の移譲を行う弁護士、税理士、公認会計士などの専門家と進める

ステップ1:事業承継診断で、今の状況を整理する

ガイドラインによると、事業承継診断は、金融機関の担当者や商工会・商工会議所の担当者が、診断票にもとづく対話を通じて、準備のきっかけをつくる取組です。所要時間は10分程度とされています。よろず支援拠点では、経営相談に来た概ね60歳以上の事業者に、この診断を行います。

ステップ2:見える化で書き出すもの

ガイドラインが挙げる、見える化の主な取組は次のとおりです。

  • 経営者が所有する不動産で、事業に使っているものがあるか。会社の借入の担保になっているか。経営者と会社の間の貸し借りや、経営者保証の有無
  • 自社株式の数と、株価の評価
  • 商品ごとの月次の売上と費用。稼ぎ頭の商品はどれか
  • 他社ではなく、なぜ自社が取引先に選ばれているか(知的資産)
  • 後継者候補の有無。候補がいる場合は、意思を確かめる時期、能力、適性、意欲

株式や貸し借りの確認は、専門家と進めます。社長にしかできない仕事の見える化は、次の章で説明します。

ステップ3:磨き上げには、規程とマニュアルの整備が入っている

ステップ3の「磨き上げ」は、業績の改善や経費の削減にとどまりません。ガイドラインは、承継の前に経営体制を総点検することを挙げています。例として、職務権限を明確にして業務権限を段階的に委譲すること、規程類やマニュアルを整備して業務が効率よく流れる体制をつくることが示されています。

社長の仕事を手順にして残す作業は、この経営体制の総点検に当たります。

準備でつまずきやすいのは、社長の頭の中にある仕事

ガイドラインは、中小企業ではノウハウや取引関係が経営者個人に集中しやすく、事業の運営や業績が経営者の資質に左右されやすいと指摘しています。

株式や不動産は、書類があり、専門家に頼めば移せます。しかし、社長の頭の中にある仕事は、書類がなく、本人にとっては当たり前なので、意識して書き出さないと残りません。残っていなければ、後継者は、社長のそばで見て覚えるしかありません。

社長の頭の中にある仕事の例と、渡す形の見本(書き方の見本で、実際の会社の例ではありません)
社長の頭の中にあることたとえば渡す形
見積書の金額の決め方お客様ごとの掛け率、値引きの限度、急ぎの場合の割増単価表と、値引きの判断基準の一覧
取引先との付き合い方先方の担当者、過去のトラブル、支払いの条件取引先ごとのメモ。メールやLINEの履歴の整理
社員への指示の出し方日報を見て何を拾い、誰に何を頼むか日報の確認手順と、拾う項目の一覧
例外の判断納期に間に合わない注文を、受けるか断るか判断の基準と、過去の判断の記録

この「頭の中にある仕事」は、属人化した仕事のことです。属人化とは何か、なぜ起きるのかは、属人化を解消するには?で解説しています。

社長の仕事を渡せる形にする4つの手順

社長の仕事を渡せる形にする手順は、次の4つです。最初から全部をやらず、時間を取られている仕事を1つ選んで、一巡させます。

  1. 1週間の仕事を書き出す:カレンダー、メール、LINEの履歴を見返して、社長がやった仕事を1行ずつ書く。進め方は、業務の棚卸しの記事にまとめています
  2. 作業・確認・判断に分ける:1つの仕事の中身を、3つに分ける(下の表)
  3. 判断の基準を言葉にする:「値引きは何%まで」「納期に間に合わない注文は、どの条件で受けるか」のように、条件と数字で書く。過去の判断を3件ほど思い出すと、基準が見えやすい
  4. 手順書にして、社員や後継者に試してもらう:社長がいない日に、手順書だけで1つの仕事を進めてもらい、つまずいた所を直す
見積書づくりを3つに分けた例(書き方の見本)
分け方中身誰が受け持つか
作業過去の見積書と単価表から、下書きを作るAIと仕組み
確認数量、条件、宛名が、依頼のメールと合っているかを見る社員
判断値引きに応じるか、最後の金額をいくらにするかを決める社長(基準を書いたあとは、社員や後継者)

判断の部分は、基準を書き出すことで、社長から社員や後継者へ、少しずつ移せます。基準が書けない判断だけが、社長の仕事として最後まで残ります。

AIでできること、人に残すこと

書き出し、分け、手順書にする作業のうち、AIが手伝えるのは、材料を整える部分です。

AIに向く作業と、人に残す作業
作業AIに向くか理由
社長の説明を録音し、文字にする向く話すほうが、書くより早く出てくる
メモや箇条書きを、手順の文章に整える向く手順の下書きを作る作業
過去の見積書やメールから、よくある条件を一覧にする向く同じ形の書類がたまっている
判断の基準を決める人が行う何を大事にするかは、社長が決める
取引先との関係の築き方を伝える人が行う後継者を引き合わせ、一緒に動いて伝える
想いや価値観を残す人が行う社長自身の言葉でなければ、伝わらない

AIに取引先の名前や個人情報を入れるときは、注意が必要です。個人情報保護委員会は、個人情報を取り扱う事業者に、確認を呼びかけています。個人情報を含む入力を行う場合は、サービスを提供する事業者が入力内容を機械学習に利用しないかなどを確かめることです。取引先の名前は「A社」のように置き換えて渡すと、扱いやすくなります。

手順書の作り方は、マニュアル作成にAIを使う方法で詳しく説明しています。

最初の1か月でやること|相談先と、手をつける順番

準備は、次の順で進めると、迷いにくくなります。

最初の1か月でやること
順やること相談先・使うもの
1事業承継診断を受け、今の状況を整理する商工会・商工会議所、金融機関の担当者、よろず支援拠点
2社長の1週間の仕事を書き出す自社で。カレンダー、メール、LINEの履歴
3自社株式の数、会社と社長個人の貸し借り、経営者保証の有無を確認する顧問税理士などの専門家
4後継者候補の有無を確かめ、いる場合は話す時間をつくる家族、役員、社員
5続けて相談する窓口を決める事業承継・引継ぎ支援センター

相談できる窓口

事業承継・引継ぎ支援センターは、各都道府県に設置されている公的な相談窓口です。中小企業基盤整備機構によると、親族内承継では、税理士や中小企業診断士などの外部専門家と連携して、事業承継計画の策定支援を無料で行っています。第三者への引継ぎ(M&A)の相談もできます。

山口県の会社は、やまぐち産業振興財団内の山口県事業承継・引継ぎ支援センターに相談できます。サイトには、相談は無料で秘密厳守と書かれています。

事業承継の準備でよくある失敗と対策

失敗1:税金の対策だけを先に考える

ガイドラインは、相続税の対策に重点が置かれすぎる場合があると指摘しています。事業と関係のない資産の購入や、株価を下げるための持株会社の設立など、事業の継続や発展にそぐわない手法が使われる例です。対策:先に会社の中身を見える化し、後継者が引き継ぎたくなる状態に整えます。

失敗2:計画書をつくることが目的になる

ガイドラインは、事業承継計画は、書類を完成させること自体が目的ではないとしています。現経営者と後継者が、対話しながら計画をつくる過程にこそ、意味があるとしています。対策:計画書の前に、後継者や関係者と話す場をつくります。

失敗3:後継者や家族に伝えないまま進める

ガイドラインは、後継者を誰にするかは、親族にとっても強い関心事だとしています。早い段階で家族会議や親族会議を開き、同意を得ておくことが極めて重要としています。対策:準備に着手したら、まず家族に伝えます。

失敗4:後継者が継ぎたくなる会社になっていない

ガイドラインが紹介する2019年の中小企業庁の調査では、後継者候補が継ぎたい理由として、次の2つが多く挙がっています。「事業がなくなると困る人(取引先・従業員等)がいるから」「事業に将来性があるから」です。前向きでない理由では、「自身の能力の不足」の次に「事業の将来性」が挙がっています。対策:承継の前に経営を改善し、事業の将来性が見える状態にします。

失敗5:肩書きだけ渡して、仕事を渡さない

たとえば、代表取締役を交代しても、見積書の金額の決め方を後継者が知らなければ、現場の社員は、これまでどおり前の社長に聞きに行きます。対策:前の章の手順で、仕事と判断の基準を渡せる形にしてから、権限を段階的に移します。

シス学の進め方|3つ目のシ「承継価値の向上」を支えます

シス学(システムAI経営学)は、社長の頭の中にある判断と勝ちパターンを、AIでマニュアルにし、AIエージェントで仕組みにして、誰がやっても回る会社をつくる経営の方法です。株式会社むさしAI研修のAI導入支援ブランドとして提供しています。旗の言葉は「世界は、システムでできている。」、掲げる言葉は「AIエージェントで売上を上げる」です。

シス学が会社に進めるやり方は、AIで会社をシステム化し、再現性を高めることです。具体的には、次の3つです。

  • 手順と判断の基準を仕組みに移し、下書きや転記はAIが、確かめる仕事は社員が受け持ちます。
  • うまくいったやり方(勝ちパターン)を、誰がやっても同じ品質で、何度でも再現できるようにします。ミスも減ります。
  • 新たな勝ちパターンのつくり方も仕組みにして、進化し続けられるようにします。

このやり方で、次の「シス学で叶える3つのシ」を目指します。

  • 1つ目のシ:収益改善:高収益体質へ。削れた作業時間と、新たな勝ちパターンで伸びた分の両方を、数字で確かめます。
  • 2つ目のシ:時間創出:社長がいなくても回る会社へ。社長は判断と次の一手に、社員はお客様への対応と自分の成長に、時間を使えるようにします。
  • 3つ目のシ:承継価値の向上:いつでも、高い価値で次へ引き継げる会社へ。

この記事のテーマは、3つ目のシです。シス学では、社長の判断と勝ちパターンを言葉と仕組みに残し、数字で説明できる会社にします。引き継ぐかどうかにかかわらず、いつでも渡せる状態にしておくことが、会社と社員を守ります。

シス学 AI戦略では、社長の仕事の書き出し、作業・確認・判断への仕分け、手順と判断基準の整理を、社長と担当者から話を伺って一緒に進めます。社員向けのAI研修、手順の自動化を行うAI開発も、同じチームで担当します。

ただし、シス学は、株式の評価、税金、契約や登記などの手続きは行いません。これらは、税理士や弁護士などの専門家、事業承継・引継ぎ支援センターと進めてください。

全国オンラインで対応し、初回のご相談は無料です。費用は、業務の内容を伺ってお見積もりします。日時を選んで無料相談を予約できます。

まとめ

  • 事業承継の準備は、概ね60歳頃に始めるのが望ましいとされる。60歳を超えている場合は、すぐに身近な支援機関に相談する
  • 渡すものは、経営、資産、知的資産の3つ。株式だけでなく、社長の頭の中にある仕事も渡す対象になる
  • ステップ1から3(認識、見える化、磨き上げ)は、後継者が決まっていなくても進められる
  • 社長の仕事は、書き出し、作業・確認・判断に分け、判断の基準を言葉にして、手順書にする

まずは、社長自身の1週間の仕事を、1行ずつ書き出してみてください。あわせて、近くの商工会議所か事業承継・引継ぎ支援センターに、事業承継診断を相談してみましょう。AI導入の全体の流れは、中小企業のAI導入の進め方にまとめています。

よくある質問

事業承継の準備は、何から始めればよいですか?

身近な支援機関(商工会・商工会議所、金融機関、よろず支援拠点など)で事業承継診断を受け、今の状況を整理するのがおすすめです。あわせて、社長自身の1週間の仕事を書き出します。株式や税金の確認は、税理士などの専門家と進めます。

事業承継の準備には、どのくらいの期間がかかりますか?

中小企業庁のガイドラインによると、後継者を決めてから承継が終わるまでの移行期間は、3年以上かかる割合が半数を上回り、10年以上かかる割合も少なくありません。会社によって違うため、支援機関に相談して、見通しを立てます。

後継者が決まっていなくても、準備はできますか?

できます。ガイドラインの5ステップのうち、準備の必要性の認識、見える化、磨き上げの3つは、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎのどれにも共通です。社長の仕事を手順にして残す作業は、誰に渡す場合にも役に立ちます。

事業承継の相談は、誰にすればよいですか?

各都道府県にある事業承継・引継ぎ支援センターは、公的な相談窓口です。親族内承継では、事業承継計画の策定支援を無料で行っています。株式や税金は税理士など、内容に合わせて相談先を使い分けます。

事業承継の準備に、AIは使えますか?

使えます。社長の説明の文字起こし、メモの手順書への整理、過去の書類からの条件の一覧化など、仕事を渡せる形にする作業を手伝わせられます。判断の基準や想いは、社長が自分の言葉で残します。個人情報を入力するときは、入力してよい範囲を先に決めます。

出典・参考

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